古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

仏教

史実にこだわると人物像が痩せ細ってしまう

そこでふつうは、まず、その人物について言及している資料から、さまざまな傍証を考慮しながら史実を抽出することになる。これはまことにその通りでなければならないわけで、後世の熱烈な信奉者の手になる捏造(ねつぞう)や神話化を、そのまま鵜呑(うの)…

常懐悲感 心遂醒悟

常懐悲感(じょうえひかん) 心遂醒悟(しんずいしょうご)と読む。『法華経』の「如来寿量品第十六」の文(もん)。「常に悲観を懐(いだ)いて、心遂(つい)に醒悟(しょうご)し」と読み下す。良医病子(ろういびょうし)の譬えの件(くだり)に出てくる…

クリシュナムルティ「その怒りに終止符を打ちなさい」/『クリシュナムルティ 人と教え』クリシュナムルティ・センター編

高橋重敏が中心になって作成した文集のようなもの。出来は悪い。物凄く。かような本を出版することができたのもビジネスパーソンとしての高橋の力量か。驚いたことに、中村元〈なかむら・はじめ〉が「刊行に寄せて」という一文を書いている。 それでも私は読…

最澄〜大乗戒壇建立は具足戒の否定

晩年の最澄には、しのこしたことがあった。大乗の戒壇院の設立である。806年(大同元)には百余名に大乗の戒をさずけている。これは唐において天台宗の道邃(どうずい)からさずけられたものであり、それを最澄は弟子たちにさずけていたわけであるが、この大…

日本仏教の黎明を告げた鎌倉仏教

まえがき 鎌倉時代には、世界の宗教史上にもまったく例をみないほど、すぐれた人材が相前後して輩出して、新しい仏教を展開した。この史上の景観は、偶然に展開したのではない。武士と呼ばれる新しい階級が、これまでの貴族の権力を押しのけて台頭し、貴族と…

無神論者とは

さて、よく「俺は無神論者だ」などという人がいます。 「無神論」という言葉が、例えばヨーロッパではどのような戦いの中で、勝ち取られてきた言葉か――自称「無神論者」の人たちは理解しているでしょうか。「神」の権威を振りかざす王や権力者との間で行われ…

仏教と菜食主義

最近ごく一部で例外的なことは見られますが、伝統的に、インド人は牛は神聖だから食べないとされてきました。そして、とくにカースト制度(法律では禁止されていますが、実際には厳然とあります)という身分制度の頂点に立つバラモンたちは、菜食主義で不殺…

時間と空間に関する覚え書き

◎では、宇宙図を見て閃いた悟りを開陳しよう(笑)。視覚が捉えている世界は「光の反射」である。光には速度がある(秒速30万km)。つまり我々に見えているのは「過去の世界」であって「現在という瞬間」を見ることはできない。 ◎更に人間の知覚は0.5秒遅れ…

仏教は自殺を本当に禁じているのか?

当人の自由意志に基づく行為はそれが何であれ「自己への暴力」とはなり得ません。当人の意志に反するからこそ暴力なのですから。自分で自分に借金することができないように、自分自身への行為は善悪と無関係です。他者の意志に反して殺すから殺生という罪に…

ブッダは十二縁起を悟ったのではない

しかも仮にこれに拠るとしても、釈尊は十二縁起を悟ったのではなく、覚ってから十二縁起を観察したのである。 【『仏教は本当に意味があるのか』竹村牧男(大東出版社、1997年)】

日蓮宗不受不施派と日奥

「日蓮宗不受不施派」とは、京都の日蓮宗寺院である妙覚寺の19世仏性院日奥(1565-1630)を派祖とする日蓮系の一派をいう。もともとは、不受不施の教えを主張する日奥に共鳴した僧俗のグループで、不受不施派という日蓮宗のなかの一つの派であった。 しかし…

マンダラとは

マンダラは、インド大乗仏教の最終ランナーだった密教が、絶対の真理と信じるところを、言葉ではなく、視覚をとおして、象徴的に表現しようと開発した図像である。心身の相関や極微と極大の相関を説く密教の立場からすれば、心の構造図とも、宇宙の構造図と…

日蓮宗不受不施派

寺請制度はキリスト教禁制を目的にしたものと一般的には理解されているが、日蓮宗不受不施派も対象であった。 (身池〈しんち〉対論を経た後の)寛文9年(1669)には不受不施派の寺請が禁止された。こうして不受不施派は寺院から追い出され、地下に潜ること…

仏教における知性と信仰

松山●それで中村元先生とかいろいろな方が教えて下さっていることですが、案外、初期のジャイナ教と仏教はいっていることは同じだし、用語も共通のものが多い。それだけではなく、バラモン教などのいったことと違うことが強調されているけど同じところもいっ…

龍樹「縁起なるものそれを空性と呼ぶ」

縁起なるものそれを空性と呼ぶ。それ(空性)は仮説であり、中道である。(『中論』二十四章第一八偈) ここで龍樹が「縁起」と呼ぶものは現象世界であるが、厳密にいうならば言葉によって表現された世界のことである。例えば、「人が歩く」という言葉(命題…

友の足音

・ブッダが解決しようとした根本問題は「相互不信」 ・人を殺してはいけない理由 ・日常の重力=サンカーラ(パーリ語)、サンスカーラ(サンスクリット語) ・友の足音 ・真の無神論者・『仏陀の真意』企志尚峰 ・『悩んで動けない人が一歩踏み出せる方法』…

時代の現実を見据えた日蓮

岸田●我々が「見ていない現実」というのは常に、都合の悪い、見たくもない現実ですけれども、その折々の「見たくない現実」というのは、時代によってそれぞれ内容は変わっているとは思います。日本だけではありませんが、とくに日本という国はいろいろな現実…

寺檀関係と墓の歴史

貴族・武家などごく少数をのぞき、庶民が寺と寺檀関係をもつようになったのは、1635年以降であり、庶民が墓を作るようになるのも1700年頃からのことである。 【『庶民信仰の幻想』圭室文雄〈たまむら・ふみお〉、宮田登(毎日新聞社、1977年)】 圭室文雄 庶…

視覚の謎を解く一書/『46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生』ロバート・カーソン

・視覚の謎を解く一書 ・道に迷うことは物事を発見するために欠かせないプロセスだ ・盲目の冒険者・耳が聴こえるようになった瞬間の表情 ・色盲の人が初めて色を見た瞬間の感動動画 ・生まれて初めて色を見て咽(むせ)び泣く人々 ・『奇跡の脳 脳科学者の…

六道輪廻する世界/『英知の探求 人生問題の根源的知覚』J・クリシュナムーティー

「三界(さんがい)は安きことなく、なお火宅のごとし」(『法華経』譬喩品〈ひゆぼん〉)と。そして人類は六道輪廻(ろくどうりんね)のスパイラルから抜け出すことができない。 1970年にスイスのザーネンで行われた講話と討論会が収められている。クリシュ…

「空」の語意

・「空」とは否定作業によって自己が新しくよみがえるプロセスの原動力 ・「私」とは属性なのか?〜空の思想と唯名論 ・枢軸時代の変化 ・「空」の語意・『世界の名著1 バラモン教典 原始仏典』長尾雅人責任編集 次に「空」という語の意味を考えてみよう。「…

瞑想は偉大な芸術/『瞑想』J・クリシュナムルティ

瞑想に関するクリシュナムルティの箴言集である。10冊ほどの著作から抜粋したもの。中川吉晴の訳はわかりやすさに重きを置いているため、文章の香りが損なわれている。だが、新訳は必ず新しい発見を与えてくれる。 クリシュナムルティの教えを実践するには瞑…

片目の中の闇

特異な描写によって、仏像が半眼である意味を理解できる。光と闇(生と死、此岸と彼岸)とを同時に見つめるには、やはり半眼でなくてはならない。 彼は長い間ある訓練を続けている。彼以外の誰も知ることのない孤独な訓練だ。彼が編み出し、彼だけが行い、彼…

大乗仏教は一切の二元対立を否定

とすれば、如来の無上正等覚において見られる(証される)世界は言語を離れた世界であり、あえて言語でもって表現すれば、一切の二元対立の否定という形になることが『法華経』という、大乗仏教の最も代表的な経典に確認されたであろう。それこそが大乗仏教…

「観察」のヒント/『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 3 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ

・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 1 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ ・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 2 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ ・「観察」のヒント・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 4 …

クリシュナムルティが放つ光/『クリシュナムルティ・実践の時代』メアリー・ルティエンス

・『クリシュナムルティ・目覚めの時代』メアリー・ルティエンス ・クリシュナムルティが放つ光・『クリシュナムルティ・開いた扉』メアリー・ルティエンス 三部作評伝の第二作で、『クリシュナムルティ・目覚めの時代』に続くもの。「プロセス」という悟達…

クリシュナムルティの人間宣言/『クリシュナムルティ・目覚めの時代』メアリー・ルティエンス

・クリシュナムルティの人間宣言 ・星の教団解散宣言〜「真理は途なき大地である」・『クリシュナムルティ・実践の時代』メアリー・ルティエンス ・『クリシュナムルティ・開いた扉』メアリー・ルティエンス クリシュナムルティをニューエイジに貶めるべきで…

あなたは人類全体に対して責任がある/『学校への手紙』J・クリシュナムルティ

世界各地を飛び回るクリシュナムルティが、インド・アメリカ・イギリスの各学校に宛てて書いたメッセージが収められている。1978年9月から1980年3月分。いずれも簡にして要を得た文章で、クリシュナムルティの思想を理解しやすいものにしている。いつもの挑…

思考の終焉/『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 2 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ

・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 1 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ ・あらゆる蓄積は束縛である ・意識は過去の過程である ・思考の終焉・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 3 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナム…

意識は過去の過程である/『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 2 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ

・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー クリシュナムルティの手帖より 1』J・クリシュナムルティ ・あらゆる蓄積は束縛である ・意識は過去の過程である ・思考の終焉・『生と覚醒のコメンタリー 3 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ 「…