書評:教育

深い問いかけが智慧を引き出す/『学びと英知の始まり』J・クリシュナムルティ

本物の哲学・宗教は必ず教育に辿り着く。思想がもつ全人生が発揮されるのは教育を措いて他にないからだ。学問・専門領域にとどまってしまえば、部分的有効性を示したも同然であろう。 しかし現代の教育は手段と堕している。学校は工場と化して不良品を取り除…

クリシュナムルティにひれ伏す男/『リシバレーの日々 葛藤を超えた生活を求めて』菅野恭子

菅野恭子はギーブル恭子という名前で『ザーネンのクリシュナムルティ』を翻訳した人物だ。クリシュナムルティの解説本の類いは、まず当たりがないと思っていい。読むに値するのはススナガ・ウェーラペルマくらいだ。 菅野はクリシュナムルティの教えに触れて…

現代人は木を見つめることができない/『瞑想と自然』J・クリシュナムルティ

現代人は木を見つめることができない 集団行動と個人行動 文明の進歩は人間を自然から隔絶した。密閉された住居、快適な空調、加工された食品、電線や電波を介したコミュニケーション、情報を伝えるメディア……。文明の進歩は人間を人間からも隔絶してしまっ…

恐怖なき教育/『未来の生』J・クリシュナムルティ

恐怖なき教育 「愛」という言葉 『英知の教育』同様、クリシュナムルティスクールで行われた講話と質疑応答で構成されている。 冒頭に27ページに及ぶ序文が記されており、クリシュナムルティの教育に懸ける情熱がほとばしっている。 彼は言う。「学校は児童…

暴力的反逆と精神的反逆/『道徳教育を超えて 教育と人生の意味』クリシュナムーティ

国家、社会、組織、集団は個々人に帰属意識を求める。このため上層部にいる者ほど集団の利益を強調し、「それこそが正しい」と人々に呼び掛ける。閣僚は国益を叫び、保守系評論家は「日本人の誇り」を訴え、部課長は売り上げ目標達成を命ずる。 組織や集団に…

相対性からの脱却/『学校への手紙』J・クリシュナムルティ

「比較が分断を生む」の続き―― 比較が分断を生み、分断がヒエラルキーを形成する。企業は信用力でランク付けされ、企業内では肩書きによって序列が構成される。家庭や地域においても同様である。ヒエラルキーは入れ子構造となっている。その全てが「比較」と…

比較が分断を生む/『学校への手紙』J・クリシュナムルティ

「人間は人間を利用し食いものにしてきた」の続き―― この手紙でクリシュナムルティは、分断された人間関係の様相を照射する―― 私たちは人間関係をバラバラに解体してしまっているので、人間関係は、ある特定の人物に対する関係、ある特定のグループに対する…

人間は人間を利用し食いものにしてきた/『学校への手紙』J・クリシュナムルティ

長いテキストなので3回に分けて紹介しよう。 法華経の展開に広・略・要(こう・りゃく・よう)という三種類がある。広は広く全体に行き渡るもので、略は簡略したもの、要は肝要・エッセンスとなる。クリシュナムルティの言説には明らかに意図的な省略が窺え…

あなたは人類全体に対して責任がある/『学校への手紙』J・クリシュナムルティ

世界各地を飛び回るクリシュナムルティが、インド・アメリカ・イギリスの各学校に宛てて書いたメッセージが収められている。1978年9月から1980年3月分。いずれも簡にして要を得た文章で、クリシュナムルティの思想を理解しやすいものにしている。いつもの挑…

戦後教育に彗星の如く現れた生活綴方/『山びこ学校』無着成恭編

戦後教育に彗星の如く現れた生活綴方 ゲラゲラでんぐりかえるほど笑った 『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの四十年』佐野眞一 今月の課題図書。若き無着成恭が取り組んだ生活綴方の結晶である。児童達の作文はゆったりとした方言を交えながら、生活と…

異なる視線/『紙屋克子 看護の心そして技術/別冊 課外授業 ようこそ先輩』NHK「課外授業 ようこそ先輩」制作グループ、KTC中央出版編

fwikさんから薦められた一冊。面白かった。とにかく紙屋克子の人柄が素晴らしい。言葉の端々にヒューマニズムが脈打っている。多分、受信料の徴収が芳(かんば)しくないNHKが、その天下り先と目される出版社と共謀し、番組をテキスト化するという割安な手法…

理想を否定せよ/『クリシュナムルティの教育・人生論 心理的アウトサイダーとしての新しい人間の可能性』大野純一

世界中の教育は失敗した 手段と目的 理想を否定せよ 創造的少数者=アウトサイダー 公教育は災いである 日本に宗教は必要ですか? 目的は手段の中にある クリシュナムルティのメッセージは「一切の条件づけに反逆せよ。そのために、ただひたすら心を探り、心…

世界中の教育は失敗した/『クリシュナムルティの教育・人生論 心理的アウトサイダーとしての新しい人間の可能性』大野純一

世界中の教育は失敗した 手段と目的 理想を否定せよ 創造的少数者=アウトサイダー 公教育は災いである 日本に宗教は必要ですか? 目的は手段の中にある クリシュナムルティのトーク(講話)、質疑応答と大野純一の解説で構成されている。質疑は教員から寄せ…

教育という関係性/『問いつづけて 教育とは何だろうか』林竹二

林竹二は稀有(けう)な教育者だ。教育論といえば、制度のあり方を論じるか、あるいは教師に“神の役割”を押し付けるかといった方向になりがちである。だが林は、「教育技術」を真摯に追求した。 林竹二は宮城教育大学学長を務めた後、全国の学校を行脚(あん…

宇治少年院の歴史を変えた大縄跳び/『心からのごめんなさいへ 一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦』品川裕香

この大縄跳びが少年達を変えた。 それでもやはりうまくいかない。運動神経の悪い子が足をひっぱっていた。だれもがそう考えていたそのとき、一人の院生がこんなこを言いだした。 自分は跳べなかったら、下(中間期)からやり直さなあかん。ホントにダメなら…

見捨てられた子供の叫び/『わたしの出会った子どもたち』灰谷健次郎

これはドラマでも引用された詩である。何度読んでも涙が止まらなかった覚えがある。親にどんな事情があったかは知らぬが、子供にこんな思いをさせるのは許されないことだ。 がっこうから うちへかえったら だれもおれへんねん あたらしいおとうちゃんも ぼく…

名門高校生による殺人事件/『子供たちの復讐』本多勝一

二つの殺人事件を追ったルポ。いずれも被害者は家族で、犯人は高校生。しかも超がつくほど優秀な高校生だ。校内暴力という言葉がメディアに出るようになったのもこの頃だ(1979年)。 高度経済成長に伴って核家族化が進んだ。そして少子化によって、子供は“…

基本的なことを発生的な方法で教える/『自由の森学園 その出発』遠藤豊

林竹二を読んで遠藤豊に辿り着いた。自由の森学園は、学生自治を重んじる自由な校風。その後、学校経営が上手くゆかず菅原文太を担ぎ出したこともあった。既に廃校かと思いきや、まだ存続していた。 Wikipedia 遠藤豊が教員に求める授業はこうだ―― 私は先生…

成長を助ける意志/『教育の再生をもとめて 湊川でおこったこと』林竹二

20代半ばで読んだ。林竹二は勝負師であった。「何が何でも子供を幸せにしてみせるぞ」という一点で勝負していた。だからこそ、授業に全精力を傾けた。 宮城教育大学の総長という立場を経た後、林竹二は全国の小学校や、定時制高校を行脚する。そして、あらん…

学校教育はパンを求める子供に石を与えている/『問いつづけて 教育とは何だろうか』林竹二

今年の頭に再読。多分、またいつの日か読むことになるだろう。 林竹二を知らない人は、『教育の再生をもとめて 湊川でおこったこと』(筑摩書房)、『授業 人間について』を先に読んでおくべきだ。すると、本書のインパクトが倍増する。 宮城教育大学の学長…

『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』福田ますみ

今時は教員になんかなるもんじゃないね。一読すると、本気でそう思うようになる。所謂、モンスターペアレントの実態を描いたルポ。ただし、その辺のバカ親と違うのは、この事件がマスコミを始めとするメディアで取り上げられ、原告弁護団に550人もの弁護士が…

『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの四十年』佐野眞一

『山びこ学校』無着成恭編 『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの四十年』佐野眞一 人間と動物の違いは様々あるだろうが、人間は教育によって“変わる”ことが出来る。動物の場合は血統がモノをいう。昨今の教育現場では刃物が飛び出す始末で恐ろしいことこ…

もったいない/『落語的学問のすゝめ』桂文珍

時代が飽食と呼ばれ久しく時を経たある頃、清貧と名の付いた本がベストセラーになった。「もったいない」と言う人が少なくなったと嘆く声をよく耳にしたものだ。環境問題に関心の高い人は、割り箸なんかに「もったいない」と思うんでしょうね。貴重な森林資…

『わたしの出会った子どもたち』灰谷健次郎

生き生きと躍り、飛び交う光の詩(うた) 14年前にこの本と出会った。今再び読み返し、所感を記そうとするとペンが中々定まらない。本の中に登場する数多(あまた)の『子どもたち』が、私の安直な言葉を許さないからだ。文章を飾ろうとすると「嘘をつくな!…