古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

2000-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『街の古本屋入門 売るとき、買うときの必読書』志多三郎

裏表紙の顔がいい。腕っぷしの強そうな面構えだ。しかしながら、文章は人なつっこい上に洒脱。遠慮がちに吐き出される小言には落語の小気味よさがある。 本と聞いた瞬間、あなたが想像するのは新刊書籍であろうか。それとも、いくらか手垢のついた古本であろ…

『雪のひとひら』ポール・ギャリコ

天から舞い降りてきた雪のひとひらの一生を描いた物語である。 平凡な女性の平凡な一生である。その意味で、雪のひとひらはあらゆる女性の象徴といえよう。 雪から雫(しずく)へと変化した雪のひとひらは、人生という名の川の流れに身を委ねる。出会い、結…

『さらば、山のカモメよ』丸山健二

・『さらば、山のカモメよ』丸山健二・『メッセージ 告白的青春論』丸山健二 青春時代が放つ、あの熱はどこから湧いてきてどこへ去ってゆくのか──。 丸山にしては極めて珍しい軽快な文章の小説である。エッセイで紹介されていた事柄が随分出て来るということ…

『ルネッサンスパブリッシャー宣言 21世紀、出版はどうなるんだろう。』松本功

出版界に一石を投じる内容だ。著者が起こした波紋は、売ることに汲々として来た業界の迷妄を醒ますに十分なものがある。 冒頭で「基礎の本」に対する危機感を表明。「基礎の本」とは、新書の巻末などで参考文献として挙げられているような本を指す。確かに浮…

『母』松山善三、藤本潔

母性が崩壊しつつある今日こそ読まれるべき作品である。 母──この最も懐かしい代名詞が現代社会では急速に変貌しようとしている。 母性愛とは、見返りを全く期待しない掛け値なしの愛情だった。どんなに碌(ろく)でもないことをしでかそうと、母は子を受け…

『Cの福音』楡周平

大藪春彦の衣鉢(いはつ)を継ぐ作家、と言っていいだろう。デビュー作にしてこれだけ読ませる作品に仕上げた力量はお見事。今後、どう化けるかに期待。 「C」とはコカインを指す。主人公・朝倉恭介が両親を飛行機事故で失い、多額の賠償金が入ってくる。大…

『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの四十年』佐野眞一

・『山びこ学校』無着成恭編 ・『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの四十年』佐野眞一 人間と動物の違いは様々あるだろうが、人間は教育によって“変わる”ことが出来る。動物の場合は血統がモノをいう。昨今の教育現場では刃物が飛び出す始末で恐ろしいこ…