書評:文学
普段は殆ど注目されることのない分野から、いきなり頭角を現して世間の耳目を集める本がある。藤原正彦や福岡伸一など。池内恵もその一人に加えられる人物である。 池内は1973年生まれ。私自身が40代後半になったせいもあるが、やはり若く感じる。時代が激し…
・差別を解消されてアフリカの魂を失った黒人の姿・『ナット・ターナーの告白』ウィリアム・スタイロン 戯曲である。私の苦手な戯曲だ。それでも手をぐいと引っ張られるようにして読み終えた。まくし立てる台詞は長文だが不思議なリズム感を奏でながら畳み込…
・人間を照らす言葉の数々・『悲しみの秘義』若松英輔ベルトルト・ブレヒトは東独の劇作家である。もちろん共産主義者だ。私が最も忌み嫌うものは「党派制を声高に主張する人物」である。だから○○主義者は全部嫌いだ。ああ嫌いだとも。 なかんずく政治におけ…
紛(まが)うことなき経典本といっていい。同じく明治学院大学の講義を編んだものとしては、加藤典洋著『言語表現法講義』が先に出版されているが、こちらは徹底的に技術志向であったのに対して、高橋本は文を書く営みの根源をまさぐっている。 「自由にもの…
『わが読書』の初版は1960年(新潮社)である。全集は1966年の刊行。ということはヘンリー・ミラーのファンであれば、昭和35年から41年にかけてクリシュナムルティの名前に触れていたことになる。 ただしこの時点でクリシュナムルティの作品は今武平〈こん・…
・『小林秀雄全作品 25 人間の建設』小林秀雄 ・超能力に対する態度 ・柳田國男著『山の人生』について ・聴覚を失ったベートーヴェンに何が聴こえていたのか ・生演奏の音は「感受される質」・『学生との対話』小林秀雄:国民文化研究会・新潮社編 本書の白…
イスラエル問題を知れば知るほど暗澹(あんたん)たる気持ちになってくる。世界がどうしてこれほどパレスチナを無視するのかが全く理解できない。 結局のところ、パレスチナってのはイギリスから見た場合、単なる空き地に過ぎなかったということだ。第一次世…
・『春宵十話』岡潔 ・『風蘭』岡潔 ・『紫の火花』岡潔 ・『春風夏雨』岡潔 ・個性が普遍に通ずる・『小林秀雄全作品 26 信ずることと知ること』小林秀雄 ・『学生との対話』小林秀雄:国民文化研究会・新潮社編 ・『天上の歌 岡潔の生涯』帯金充利 ・『生…
・『物語の哲学』野家啓一 ・『死と狂気 死者の発見』渡辺哲夫 ・自爆せざるを得ないパレスチナの情況 ・9.11テロ以降パレスチナ人の死者数が増大 ・愛するもののことを忘れて、自分のことしか考えなくなったとき、人は自ら敗れ去る ・物語の再現性と一回性 …
森本哲郎は文章がいい。春の小川のように優しく瑞々しい。 先人の生きざまを通して現代人の生のあり方を問う。文芸評論より一歩踏み込んだ内容である。著者の人生に色濃く影響を与えた書物も取り上げられていて、「私の人生観」といった趣もある。 洋の東西…
・『小林秀雄全作品 25 人間の建設』小林秀雄 ・超能力に対する態度 ・柳田國男著『山の人生』について ・聴覚を失ったベートーヴェンに何が聴こえていたのか ・生演奏の音は「感受される質」 ・仏教は神道という血管を通じて日本人の体内に入った・『学生と…
5月11日に父が倒れた。そして、22日に逝ってしまった。短気な性分だったので長く入院することを嫌ったのかもしれない。 父が倒れたのは脳幹出血によるもので、直後に意識不明となった。数日後、左手・両足などに不随意運動が見られたが、意識が戻ることはな…
これは面白かった。小林秀雄の講演「信ずることと考えること」が取り上げられていることを知り、一も二もなく取り寄せた。流麗な文章で実に見事な解説をしている。 しかし、である。読んでいる時には気づかなかったのだが、いくつかのテキストを入力したとこ…
・『メッセージ 告白的青春論』丸山健二 ・命の炎はしっかりと燃えている 花の写真集である。丸山健二が一人で作った自宅の庭に咲き乱れる花々だ。庭の写真集ではないので注意が必要だ。言葉は「ついで程度」に記されている。 昔ながらの丸山ファンから不評…
私の知っている中で最も卑しい感情は、弾圧される人々への嫌悪である。そういった感情のせいでわれわれは、弾圧される人々の特徴を理由にして、弾圧を正当化しうるように思うのだ。きわめて高貴で公正である哲学者さえ、こういう感情をまぬがれていない。 【…
友岡雅弥著『ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う』には様々なパラグラフが挿入されているのだが、最も衝撃を受けた言葉がこれ―― 世界の息吹から遠ざけられて、おまえは、息吹どころか風も入らない牢獄に入れられているの…
振り返ると小学生の時分から濫読に次ぐ濫読を繰り返して今日に至っている。本を読まなかった時期は古本屋を立ち上げてからのこと。やはり、読み物から売り物に変わってしまったことが大きい。いつ手元から巣立ってゆくかわからぬ本を読む気にはなれなかった…
1ページ目で挫けた。たった9行の中に「ない」が九つもあったからだ。癪だったので、パラパラ漫画の如く飛ばし読み。宇野浩二と仲がよかったんだね。初版が私の生まれた年だったので興味を抱いたのだが、見事に外れた。
艶っぽい話が多数出てくる。それもそのはず前半は題して「西鶴十話」。男女のいかがわしい話しが大半なのだが、なんとも言い難い趣がある。あっさりとした軽妙さといおうか、離れた位置で嗤(わら)っているような醒めた視線がある。“粋”という美学が文章に…
前に紹介した丸谷才一の『思考のレッスン』(文藝春秋)にこういうくだりがあった。「思考の準備において最も大切なのは読書である。そして、読書のコツは、その本を面白がること。面白くない本は読むべからず」(趣意)。更に本の選び方として「書評を読む…
ダラダラと無為な時間を過ごしている時に思い起こす話がある。 それはかのドストエフスキーが銃殺刑に処せられようとした“あの瞬間”のエピソードだ。革命分子と目され逮捕。予想だにしなかった判決が下される。この時、ドストエフスキー27歳。処刑は3人ずつ…
サブタイトルが「25の童話の驚くべき真相」。最近この手の本が随分と流行っているようだが世紀末現象の一つであろうか。25の童話を通し、なぜ曲解さたのか、作者が伝えたかった本質は何なのかが、短いが丹念な文章で書かれている。この本で紹介されている物…