視覚
Essais d’herméneutique
錯視
きっと他人の行動を傍観している立場の人間は、どうあっても独善的になるものなのだろう。考えてみれば当然の話だ。観察されている人間ほど無防備なものはなく、観察している人間の想像力ほど身勝手なものはないからだ。 たとえば、雨の日にクルマに乗ってい…
視覚は、外界に眼を向け、頭のなかの画面にその映像を映し出すことにとどまるわけではない。私たちの脳は、外界を再現するだけではなく、それを理解しなければならない。実際、脳は、居間のテレビに映し出されている映像を理解するために懸命に働く必要があ…
多くの動物、特にネズミやモグラの視覚は極めて原始的であり、実際のところ視覚がないに等しいにもかかわらず、環境の中で自分の進む方向をかなりうまく見定め、進化的意味での生存を可能にする一般的活動を行うことができる。 筆者が思うに、この問いの答え…
〈画家〉と〈見えるもの〉とのあいだで、不可避的に役割が顛倒する。その故にこそ、多くの画家は物が彼らを見守っているなどと言ったのだし、クレーに次いでアンドレ・マルシャンも次のように言うのだ。「森のなかで、私は幾度も私が森を見ているのではない…
・『クリシュナムルティの日記』J・クリシュナムルティ ・組織化された殺人が戦争である・『自己の変容 クリシュナムルティ対話録』クリシュナムルティ クリシュナムルティを初めてひもといたのは、昨年の10月20日のことだった。この1年間で関連書も含めると…
人は仕事とプライベートでは異なる顔をしている。職場の嫌われ者がよき家族の一員であったとしても驚くことではあるまい。 高橋の『13日間で「名文」を書けるようになる方法』を読んだ人であれば、手に取らずにはいられない作品だ。主人公はランちゃんとキイ…
視野に見える鼻はどうでしょう。なぜ気にならないのでしょう。顔をどこに向けても、鼻先はいつも同じ場所に見えています。でも、鼻の存在はまったく気になりません。見えている気さえしません。これまた脳の作用です。無意識に視野の鼻を消しているのです。 …
視覚の謎を解く一書 道に迷うことは物事を発見するために欠かせないプロセスだ 盲目の冒険者 『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー 抜群の移動能力が世界へのハードルを引き下げていたことは確かだが、それもメイならではなお世界に…
……メルロは、ためらって言った、《ぼくは多分、自然について書くことになるだろう》。彼は、私の考えの方向を決めてくれようとして付け加えた。《ぼくはホワイトヘッドの中で、自然はぼろ布の中にあるという、驚くべき文章を読んだのだ》。……私は意味がよく…
「婦人と老婆」と題した有名な錯視画像がある。ザ・だまし絵ともいうべきもので、初めて見た時は腰を抜かしそうになった。もう20年以上前のこと。 画面中央の右上部分を「耳」と見れば後ろ向きの乙女で、「目」と見ればうつむき加減の老婆に見える。これぞパ…
SFの醍醐味は、科学技術が発達してもなお避けることのできない人間の苦悩を描き出すところにある。未来という舞台設定に映し出されているのは、現代社会が抱える人間の業(ごう)といっていいだろう。 グレッグ・イーガンを初めて読んだ。短篇集である。文章…
◎では、宇宙図を見て閃いた悟りを開陳しよう(笑)。視覚が捉えている世界は「光の反射」である。光には速度がある(秒速30万km)。つまり我々に見えているのは「過去の世界」であって「現在という瞬間」を見ることはできない。 ◎更に人間の知覚は0.5秒遅れ…
(スタニスラス・)デハーネ(※フランスの神経科学者)の見解をあえて膨らませてみると、文字を読む脳はどうも、本来、視覚専用としてではなく、視覚を概念形成機能および言語機能と結びつけるために設計された、古いニューロン経路を活用しているように思わ…
尋問者と被尋問者は、互いに同じように好奇心を抱くものだ(尋問セミナーの講師に招かれると、ダンスは受講者にかならずこう注意を促す。「あなたが相手を観察するのと同じように、相手もあなたを観察しています。それどころか、あなたのほうがよほど綿密に…
この問いに答えるためには、進化生物学に眼を向け、次のように問う必要がある。「視覚はなんのためにあるのか?」生物学的観点から得られる答えはきわめて明快だ。視覚が進化したのは、それが動物の適応度をとにかく高める――生存し繁殖する能力を高める――か…
ラマチャンドランは、存在しない手足が激しく痛む幻肢痛の治療に成功している。 正常なおとなが鏡像と本物の物体を混同することはめったにない。高スピードで近づいてくる車がバックミラーに見えたとき、ブレーキを強く踏む人はいない。車の像は前から急接近…
・『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム ・『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン ・比較トラップ ・不合理性はいつも同じように起こり、何度も繰り返される ・刷り込みやアン…
わかったことは、目があるからモノが見えるんじゃないということなんですね。耳があるから聞こえるわけではなくて、どんな音でも注意深く聞かなければ雑音になったりします。視力があるからモノが見えてるのではなくて、注意深く見なければモノの本質は見え…
さしたる興味も湧かない物語をぐいぐい読ませる筆力がある。透明感を湛(たた)えた文章、引き締まった文体、揺るがぬ小説の結構……。前にもこのような作品と出会ったことがある。読み進むうちに思い出した。ローリー・リン・ドラモンドの『あなたに不利な証…
直感的思考はしっかりした推理というフィルターを使わずに、無意識のうちに私たちを先導する。というより、スピードの秘密は、ほかならぬその無意識にある。脳の深いところにある扁桃体(へんとうたい)は、たとえば、ある人の顔に表われた恐怖のサインを、3…
・現代人は木を見つめることができない ・集団行動と個人行動 文明の進歩は人間を自然から隔絶した。密閉された住居、快適な空調、加工された食品、電線や電波を介したコミュニケーション、情報を伝えるメディア……。文明の進歩は人間を人間からも隔絶してし…
スーザン・ソンタグの本を初めて読んだ。凄い。柔軟さとしなやかさが強さであることを示している。当初、「鞭のようだ」と思った。が、それは正確ではない。衣(ころも)のように包み込み、水のごとく浸透する、と言うべきか。 彼女は揺らぐ。バランスをとる…
・視覚の謎を解く一書 ・道に迷うことは物事を発見するために欠かせないプロセスだ ・盲目の冒険者・耳が聴こえるようになった瞬間の表情 ・色盲の人が初めて色を見た瞬間の感動動画 ・生まれて初めて色を見て咽(むせ)び泣く人々 ・『奇跡の脳 脳科学者の…
病人や要介護者と話す場合、目を合わせることも大切であるが、それ以上に重要なのは口の形を見せることである。健常者であっても視覚が聴覚を補っていて、実は視覚の方が優先されている。 Wikipedia マガーク効果:視覚優位 錯聴/視聴覚統合/マガーク効果 …
坂根厳夫訳(創元社、2008年)。「だまし絵」は「トリックアート」ともいう。騙(だま)されていることがわかっているにも関わらず、妙な快感を覚える。騙されても何の被害もないことにもよるが、それ以上に人間が「不思議という意外性」を求めているためだ…
・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 1 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ ・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 2 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ ・「観察」のヒント・『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 4 …
fwikさんから薦められた一冊。面白かった。とにかく紙屋克子の人柄が素晴らしい。言葉の端々にヒューマニズムが脈打っている。多分、受信料の徴収が芳(かんば)しくないNHKが、その天下り先と目される出版社と共謀し、番組をテキスト化するという割安な手法…
その後、「神経をつなぎ変えた」カエルを人工的な獲物を用いてテストしたところ、カエルは向きを変え、獲物を捕獲するためにすばやく舌を伸ばしたが、その方向は獲物が提示された側とは逆方向であった。この「左右逆の」行動が生じたのは、カエルの獲物捕獲…