書評:思想・哲学

体験は真実か?/『自己の変容 クリシュナムルティ対話録』クリシュナムルティ

『最後の日記』J・クリシュナムルティ 体験は真実か? 『英知の教育』J・クリシュナムルティ 「計画停電だと? ふざけんじゃねーよ!」と声を大に叫んだところで、パソコンは立ち上がらないし、トイレの水も流れない(集合住宅のため水道ポンプも動かず)。…

無である人は幸いなるかな!/『しなやかに生きるために 若い女性への手紙』J・クリシュナムルティ

1948年から60年にかけてクリシュナムルティが若い女性に宛てた手紙を編んだもの。63ページの小品である。これで800円は高いわな。きっとクリシュナムルティも眉をひそめることだろう。 1950年代半ばにクリシュナムルティはダライ・ラマと会談している。イン…

ロゴス宗教、テキスト宗教のドグマ/『生きる勇気』パウル・ティリッヒ

友岡雅弥著『ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う』で紹介されていた一冊。 パウル・ティリッヒは理性を重んじ、自律を説くことでキリスト教の思想的沃野を広げた人物のようだ。宗教を「究極の関わり」と定義した。 ここで…

人類の意識はひとつ/『人類の未来 クリシュナムルティVSデビッド・ボーム対話集』

対話をするには同じテーブルにつく必要がある。涙の連絡船に乗った人が海岸で見送る人と対話をすることはない。距離がありすぎる。対話の前提は歩み寄ることだ。 では各所のテーブルを見てみよう。ファミリーレストランで身を乗り出す主婦、会議室で向かい合…

自由とは良心に基いた理性/『思想の自由の歴史』J・B・ビュァリ

権威者の過ちが進歩を阻む/『科学と宗教との闘争』ホワイト 自由とは良心に基いた理性 合理性を阻む宗教的信念 魔女狩りの環境要因/『魔女狩り』森島恒雄 キリスト教を知るための書籍 歴史を俯瞰すると鮮やかに色彩が変わる時期がある。そのグラデーション…

組織化された殺人が戦争である/『最後の日記』J・クリシュナムルティ

『クリシュナムルティの日記』J・クリシュナムルティ 組織化された殺人が戦争である 『自己の変容 クリシュナムルティ対話録』クリシュナムルティ クリシュナムルティを初めてひもといたのは、昨年の10月20日のことだった。この1年間で関連書も含めると41冊…

クリシュナムルティ「その怒りに終止符を打ちなさい」/『クリシュナムルティ 人と教え』クリシュナムルティ・センター編

高橋重敏が中心になって作成した文集のようなもの。出来は悪い。物凄く。かような本を出版することができたのもビジネスパーソンとしての高橋の力量か。驚いたことに、中村元〈なかむら・はじめ〉が「刊行に寄せて」という一文を書いている。 それでも私は読…

ヴェーバーが読み解くトルストイ思想/『職業としての学問』マックス・ウェーバー

あまり面白くなかった。多分、ゆっくりと時間が流れる時代だったのだろう。薄っぺらいから読めたようなものだ。 一番興味深かったのは、トルストイに触れた部分である―― トルストイは、かれ独特のやり方でこの問題に到達している。かれの頭を悩ました全問題…

「私たちは二人の友だちです」/『知恵のめざめ 悲しみが花開いて終わるとき』J・クリシュナムルティ

クリシュナムルティの「言葉の揺れ」を正確に翻訳した労作で、原書のみならず録音テープの内容で補完している。つまり、声の響きを除けば我々は聴衆と全く同じ位置に置かれるというわけ。 ただし既に書いた通り、小早川&藤仲コンビの姿勢は評価できるが、そ…

重力に抗うストイシズム/『重力と恩寵 シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄』シモーヌ・ヴェイユ

私はどうしてもこの女性が好きになれない。シモーヌ・ヴェイユはあまりにも清らかで純粋だ。彼女は生き急ぎ、死に急いでいた。常人の数倍ものスピードで生きた彼女は34歳で死んだ。 「カイエ」とは「ノート」のことで、ヴェイユのノートを箴言集風に編んだ作…

道徳と政治を混同してはならない/『資本主義に徳はあるか』アンドレ・コント=スポンヴィル

「政治とカネ」の問題がかまびすしい。電波利権に浴する人々が口角泡を飛ばして政治家を糾弾している。去る参院選では「クリーンな政治」を掲げた政党もあった。ひょっとして政治家はクリーニング屋になろうとしているのだろうか? ちょっと考えてみよう。ク…

宗教の語源/『精神の自由ということ 神なき時代の哲学』アンドレ・コント=スポンヴィル

米軍による原爆投下は人体実験だった/『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人 宗教の語源 神経質なキリスト教批判/『神は妄想である 宗教との決別』リチャード・ドーキンス キリスト教を知るための書籍 アンドレ・コン…

私たちは何をすべきか? 何から始めるべきか?/『ザーネンのクリシュナムルティ』J・クリシュナムルティ

同時代に果たしてこれほど世界を駆け巡った人物がいただろうか? 思想や宗教が人間の本質をわしづかみにすると国境を越えて広まってゆく。普遍性は言語や文化を超越して「人間の共通項」を炙(あぶ)り出す。エゴを支えているのは差異への執着だ。真実を叫ぶ…

努力と理想の否定/『自由とは何か』J・クリシュナムルティ

努力と理想の否定 自由は個人から始まらなければならない 止観 若い頃に運動をしてきたこともあって、私は思想や宗教をスポーツと同じ次元で見つめる癖があった。「生きる智慧」は身体性や皮膚感覚に求めるべきだという強い思い込みがあった。 「偉そうなこ…

哲学の限界/『現代思想の冒険』竹田青嗣

昨年の10月から怒涛の如くクリシュナムルティ本を読んできた。そこで感受性の偏りを防ぎ、バランスをとる目的で本書を読んだ。 結論から述べよう。思想・哲学の無力さがよくわかった。大体、近代思想の多くが西欧から誕生した時点で胡散臭い。キリスト教+経…

現代人は木を見つめることができない/『瞑想と自然』J・クリシュナムルティ

現代人は木を見つめることができない 集団行動と個人行動 文明の進歩は人間を自然から隔絶した。密閉された住居、快適な空調、加工された食品、電線や電波を介したコミュニケーション、情報を伝えるメディア……。文明の進歩は人間を人間からも隔絶してしまっ…

スーザン・ソンタグの遺言/『良心の領界』スーザン・ソンタグ

スーザン・ソンタグの名前は知っていた。初めて顔を見た時は「インディアンの血が混じっているのか?」と思った。 高橋源一郎は授業でこのテキストを紹介した後で、「窓の外を見てください。風景が変わって見えませんか?」と語った。自分の内側に向かって強…

戦争と写真/『他者の苦痛へのまなざし』スーザン・ソンタグ

スーザン・ソンタグの本を初めて読んだ。凄い。柔軟さとしなやかさが強さであることを示している。当初、「鞭のようだ」と思った。が、それは正確ではない。衣(ころも)のように包み込み、水のごとく浸透する、と言うべきか。 彼女は揺らぐ。バランスをとる…

クリシュナムルティから影響を受けた人々/『変化への挑戦 クリシュナムルティの生涯と教え』J・クリシュナムルティ

人が歴史を動かすのか、歴史が人をつくるのか──いずれにしても時代と人は密接につながり、シンクロしてゆく。 世に偉人と言われる人々は、それまでの価値観を一変させた── 歴史を通じて、ごく稀にではあるが伝統に抗した人々がいる。ソクラテス、アインシュ…

日本語初のDVDブック/『変化への挑戦 クリシュナムルティの生涯と教え』J・クリシュナムルティ

「沢村貞子に似ているな」──私が初めてクリシュナムルティの顔を見た時の印象だ。若かりし頃の写真は彫像のように端正でエネルギッシュだ。思わず、「ヨッ、色男!」と声を掛けたくなるほど。 英語のDVDを大野純一の提案でDVDブックにしたようだ。これは正解…

恐怖なき教育/『未来の生』J・クリシュナムルティ

恐怖なき教育 「愛」という言葉 『英知の教育』同様、クリシュナムルティスクールで行われた講話と質疑応答で構成されている。 冒頭に27ページに及ぶ序文が記されており、クリシュナムルティの教育に懸ける情熱がほとばしっている。 彼は言う。「学校は児童…

六道輪廻する世界/『英知の探求 人生問題の根源的知覚』J・クリシュナムーティー

「三界(さんがい)は安きことなく、なお火宅のごとし」(『法華経』譬喩品〈ひゆぼん〉)と。そして人類は六道輪廻(ろくどうりんね)のスパイラルから抜け出すことができない。 1970年にスイスのザーネンで行われた講話と討論会が収められている。クリシュ…

すべての戦争に対する責任は、われわれ一人一人が負わなければならない/『自己変革の方法 経験を生かして自由を得る法』クリシュナムーティ

『大師のみ足のもとに/道の光』J・クリシュナムルティ、メイベル・コリンズ すべての戦争に対する責任は、われわれ一人一人が負わなければならない 『自由への道 空かける鳳のように』クリシュナムーテイ 2年前、レヴェリアン・ルラングァの『ルワンダ大虐…

唯幻論の衝撃/『ものぐさ精神分析』岸田秀

宗教とは何か? 唯幻論の衝撃 吉田松陰の小児的な自己中心性 明治政府そのものが外的自己と内的自己との妥協の産物 軍部が強制的に国民を戦争に引きずりこんだというのは誤り 現代心理学が垂れ流す害毒/『続 ものぐさ精神分析』岸田秀 『神々の沈黙 意識の…

暴力的反逆と精神的反逆/『道徳教育を超えて 教育と人生の意味』クリシュナムーティ

国家、社会、組織、集団は個々人に帰属意識を求める。このため上層部にいる者ほど集団の利益を強調し、「それこそが正しい」と人々に呼び掛ける。閣僚は国益を叫び、保守系評論家は「日本人の誇り」を訴え、部課長は売り上げ目標達成を命ずる。 組織や集団に…

恐怖からの自由/『自由への道 空かける鳳のように』クリシュナムーテイ

『自己変革の方法 経験を生かして自由を得る法』クリシュナムーティ著、メリー・ルーチェンス編 恐怖からの自由 『道徳教育を超えて 教育と人生の意味』クリシュナムーティ かれこれ20年ほど前になるが、地域の人々を招いて「遊び」に関する研究発表を行った…

監獄としての世界/『片隅からの自由 クリシュナムルティに学ぶ』大野純一

一人の人物を見つめる時、自分の立ち位置を自覚する必要がある。自分の瞳に映る相手は自分によって解釈されおり、その人物の断片あるいは誤認の可能性をはらんでいる。評伝や人物評価の難しい所以(ゆえん)である。 1934〜1948年の講和が五つと、大野純一に…

知の強迫神経症/『透きとおった悪』ジャン・ボードリヤール

ボードリヤールはまるで昆虫のようだ。鋭敏な触覚で時代の動向を察知し、強迫神経症的なレトリックを並べ立てる。その姿は驚くほど色彩鮮やかで、胸の悪くなるような形状をしている。あるいはフグか。毒性をもって舌をピリピリと刺激し、油断をすると死に至…

ジョン・グレイのクリシュナムルティ批判/『わらの犬 地球に君臨する人間』ジョン・グレイ

ジョン・グレイによるクリシュナムルティ批判の全文を挙げておこう── クリシュナムルティの重荷 19世紀の末から20世紀のはじめにかけて世界各地で流行したニューエイジのカルト集団、神智学協会はジドゥ・クリシュナムルティをキリストや仏陀に次ぐ現代の救…

吐かれた唾を集めた痰壷本/『わらの犬 地球に君臨する人間』ジョン・グレイ

ジョン・グレイが吐いた唾(つば)で全ページがドロドロになっている。ま、言うなれば痰壷本(たんつぼぼん)だ。タイムズを始めとする各紙が2009年の一冊に選んだそうだが、所詮欧米の話。キリスト教に打撃を与えるのはまことに結構なんだが、どうもこの著…