古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

1999-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『A型の女』マイクル・Z・リューイン

全く酷いものだ。映画や書物につける邦訳タイトルの拙劣さは、これまでにも数多く指摘されてきたが、これなんぞもその最たるものだろう。更なる悲劇が文庫本の表紙を襲う。アメリカあたりの4コマ漫画から取ってきたような淡い色調のカットが、控えめに中央に…

言いわけする哲学/『われ笑う、ゆえにわれあり』土屋賢二

・言いわけする哲学・『こぐこぐ自転車』伊藤礼 凄まじい哲学が誕生した。一言で言うならば「言いわけする哲学」! 鋭い弁解の数々は英知に裏づけられ、際限のない揚げ足取りを集中力が支える。不況に喘ぐ世紀末を生き抜く者にとっては必読の書と言えよう。…

『ドストエフスキー伝』アンリ・トロワイヤ

ダラダラと無為な時間を過ごしている時に思い起こす話がある。 それはかのドストエフスキーが銃殺刑に処せられようとした“あの瞬間”のエピソードだ。革命分子と目され逮捕。予想だにしなかった判決が下される。この時、ドストエフスキー27歳。処刑は3人ずつ…

『銀の匙』中勘助

この本はまもなく読まれなくなるだろう。 コルクの箱に収められた玩具の数々。幼い日の想い出をまざまざと蘇らせたであろう品々の中に銀の匙(さじ)があった。物語はこの銀の匙の想い出から紡ぎ出される。 前編は、主人公の出生から10歳くらいまでが描かれ…

街の変化から時代を読み取るフィールドワーク/『タウン・ウォッチング 時代の「空気」を街から読む』博報堂生活総合研究所

街を楽しもうというコンセプトで編まれた“マーケティング街論”とでも言うべき書物だ。発行は1985年となっているから、バブルの絶頂期に突っ込む前の、街の変化が際立った頃(カフェバー・ブーム等)にはタイムリーな1冊だったのであろう。街の観察の仕方から…

『遊ぶ』富岡多恵子(責任編集)、鶴見俊輔、中野収、畑正憲、三上寛

私は以前から「遊び」ということに多大な関心を持っている。しかし、私が遊び人だということではない。ある青年が(私も青年ではあるが)「最近、遊ぶ場所がないんですよね。まあ金さえ出せばどこでも遊べるんですが……」とぼやいた。今から10年ほど前のこと…

人類に巣食う本能への考察と激論/『争う 悪の行動学』岸田秀(責任編集)、いいだもも、黒沼ユリ子、小関三平、日高敏隆

前半はバトルロイヤルを思わせる対談、後半はそれぞれのレポートで構成されている。多分絶版になっていると思うが、古本屋で比較的入手し易いだろう。新書サイズを一回り大きくした版で、単行本の背を高くした大きさのソフトカバーである。 対談の脚注に工夫…

人間を操作する快感の末路/『心をあやつる男たち』福本博文

高度成長期にさかんに行われた管理職を特訓するST(センシティビティ・トレーニング)と、飽食の時代に入り横行した宗教的な手法を駆使する自己開発セミナー。これらがどのような時代背景の中で誕生し、如何なる社会問題へと至ったのか。あるトレーナーの半…

威勢は好いが腰砕けの感拭えず/『近代の拘束、日本の宿命』福田和也

それなりに読ませる本だ。著者は自ら右翼を名乗る若手オピニオン・リーダー。 前半の国体論には少々辟易させられる。国の構えを論じる場合どうしても防衛という一点を外すわけにはいかないのはわかるが、納得できる説明などしようがないんじゃないか? 根本…

子供の詩

「むげん」中村太一 うちゅうより ひとつ おおきいかずだね 【足立みどり幼稚園 5歳(読売新聞 1999-10-04付)】 君はどうやって、その真理を知り得たのだ? 子供の詩

とんだ肩透かしを食わされた話題作/『ブエノスアイレス午前零時』藤沢周

今月、河出書房より文庫化されることを知り、面白かったら人に薦めてみようと思って読んでみた。ご存じ、昨年の芥川賞受賞作品。いまだにハードカバーを平積みにしている本屋があるところを見ると、結構売れているのだろう。本書にはタイトル作品と「屋上」…

荒技で障害者への偏見をぶっ飛ばす/『無敵のハンディキャップ 障害者が「プロレスラー」になった日』北島行徳

副題は“障害者が「プロレスラー」になった日”。表紙に掲載されている写真を見るとわかるが本物である。正真正銘の障害者の面々だ。小ぶりの写真に何とも言えぬ笑顔の数々が眩しい。 著者が代表を務める障害者プロレス団体「ドッグレッグス」が誕生した経緯か…