書評:スポーツ

行動経済学という武器/『「ジャパン」はなぜ負けるのか 経済学が解明するサッカーの不条理』サイモン・クーパー、ステファン・シマンスキー

透徹した専門性は学問領域を軽々と越境する。ま、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」ってな感じだわな。狭いトンネルが別世界に通じることもあれば、穴のまま終わることもあるのだろう。 それにしても行動経済学の台頭恐るべし。一昔前なら「大体…

エディ・タウンゼントと井岡弘樹/『遠いリング』後藤正治

エディ・タウンゼントの名を知ったのは、沢木耕太郎の『一瞬の夏』(新潮社、1981年/新潮文庫、1984年)を読んでのこと。ボクシング・トレーナーとして育て上げた世界チャンピオンは藤猛、海老原博幸、柴田国明、ガッツ石松、友利正、井岡弘樹の6人。赤井英…

イラクチームの快進撃を政治利用したブッシュ大統領/『蹴る群れ』木村元彦

私はサッカーをまったく観ない。多分、日本代表がワールドカップの決勝戦に進出したとしても観ることはないだろう。そんな私が本書を開くや否や、一気に引きずり込まれ、貪(むさぼ)るように読んだ。 彼等は紛争という大地に立っていた。彼等は人種差別とい…

オシムが背負う十字架/『オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える』木村元彦

スポーツ選手や職人の言葉が胸を打つのは、思考に身体性が伴っているためであろう。そう。人生とは“行為”なのだ。時に学者の言葉が軽く感じられるのは、私の人生とは無縁な能書きに過ぎないからだ。 イビツァ・オシム。身長191cmの偉容。猫背なのは知性が重…

ジョージ・フォアマンの復讐/『彼らの誇りと勇気について 感情的ボクシング論』佐瀬稔

佐瀬稔はムラが多い作家だ。というよりはむしろ、本書の完成度が高過ぎたのかもしれない。「ファイト」という名の詩を前にした途端、他の作品は色褪せてしまう。ジョージ・フォアマンは引退後、宣教師となった。それから10年後、青少年の更生施設の建設費用…

野球人・王貞治の悟りと怒り/『回想』王貞治

福岡ソフトバンクホークスの王貞治監督が今シーズンで引退した。WBCの第1回大会で日本チームを優勝に導いたドラマは今尚記憶に新しい。癌ですら、野球に懸ける情熱を阻むことはできなかった。グラウンドに再び立った時の痩せこけた頬は、まぎれもなく修行者…

『「ありがとう」のゴルフ 感謝の気持ちで強くなる、壁を破る』古市忠夫

震災前の私は、ごく普通のゴルフ好きの写真屋のおっちゃんでした。震災から復興して、またゴルフができるようになったとき、私は自然にコースに向かって一礼するようになりました。生き残って大自然のコースに立ち、球が打てる。その幸せに自然と頭が下がる…

『還暦ルーキー 60歳でプロゴルファー』平山譲

「古市忠夫君」 係員が名前を呼んだ。ティーショットの順番がまわってきたのであった。忠夫は「はい」と応え、ゆっくりと打席へ向かった。烈風と豪雨に蹌(よろ)めきながら、これから打ち下ろす方向に正対し、直立した。 そのときであった。突然彼は、雨合…

『自転車で痩せた人』高千穂遙

以前から気になっていた本の一つ。実に読みやすく、読んだだけでも痩せた気になる(笑)。高千穂氏のSF作品は1冊も読んでないが、かなり真面目な性格が窺える。 50歳を過ぎてから、2年で24kgの減量に成功したというのだから凄い。裏表紙の顔は精悍そのもの。…

リング上での崇高な出会い/『彼らの誇りと勇気について 感情的ボクシング論』佐瀬稔

格闘技に魅了される心理は何によって支えられているのだろう? 心の裡(うち)でスポーツとはまた違った次元の衝動に、激しく揺り動かされるものの正体は何なのだろう? 知性と暴力が生み出す計算された攻撃、一歩踏み外せば直ぐそこにある死の予感、肩書な…

『無敵のハンディキャップ』北島行徳

荒技で障害者への偏見をぶっ飛ばす 副題は“障害者が「プロレスラー」になった日”。表紙に掲載されている写真を見るとわかるが本物である。正真正銘の障害者の面々だ。小ぶりの写真に何とも言えぬ笑顔の数々が眩しい。 著者が代表を務める障害者プロレス団体…

『記録をうちたてた人々』鈴木良徳

記録に挑戦し続ける人間ドラマ 記録──胸を躍らせる言葉だ。そして、厳粛な響きをもつ言葉だ。 記録をつくることができるのは人間だけだ。この本に描かれているのは、ありふれた記録ではない。オリンピックで新記録をつくった人々の粉骨砕身のドラマである。 …