古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

書評:ノンフィクション

革マル派に支配されているJR東日本/『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』西岡研介

・革マル派に支配されているJR東日本・『自治労の正体』森口朗 読む前は「虫眼鏡本かな?」と思っていた。小さな事実を大袈裟なまでに拡大解釈して騒ぎ立てる本を私は虫眼鏡本と呼ぶ。予断は見事に外れた。タイトル通りの内容だった。驚愕の事実である。JRを…

エディ・タウンゼントと井岡弘樹/『遠いリング』後藤正治

エディ・タウンゼントの名を知ったのは、沢木耕太郎の『一瞬の夏』(新潮社、1981年/新潮文庫、1984年)を読んでのこと。ボクシング・トレーナーとして育て上げた世界チャンピオンは藤猛、海老原博幸、柴田国明、ガッツ石松、友利正、井岡弘樹の6人。赤井英…

重度身体障害者が独り暮らしを断行/『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』渡辺一史

・重度身体障害者が独り暮らしを断行・『往復書簡 いのちへの対話 露の身ながら』多田富雄、柳澤桂子 よもや、活字で「三角山」に出会うとは思わなかった。私は幼少時をこの山の麓(ふもと)で過ごしているのだ。それ以降、苫小牧、帯広と引っ越し、再び札幌…

獄中の極意/『アメリカ重犯罪刑務所 麻薬王になった日本人の獄中記』丸山隆三

丸山隆三は派手なカーチェイスの末に逮捕された。アメリカでのこと。バブル前夜ともいうべき時期に、彼は外車の並行輸入を手掛けて、これが当たった。懐が温かくなると悪い友達が群がるようになる。そして転落の人生が幕を開けた。麻薬売買の仲介者(フィク…

東京電力の暗部/『東京電力 暗黒の帝国』恩田勝亘

・東京電力の暗部 ・東京電力の子会社 ・東京電力の隠蔽体質・『原子力ムラの陰謀 機密ファイルが暴く闇』今西憲之+週刊朝日取材班 ・『原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語』安冨歩 本日より、カテゴリーを変更することにした。理由は、記事…

モルモン教の経典は矛盾だらけ/『信仰が人を殺すとき』ジョン・クラカワー

数年前のことだが近所に教会ができた。見るからに清々しいたたずまいで、垢抜けた瀟洒(しょうしゃ)な建物だった。最近になって気づいたのだが、実はモルモン教(正式名称は「末日聖徒イエス・キリスト教会」)だった。もちろん建物と教義は別であろう。だ…

宇宙人に誘拐されたアメリカ人は400万人もいる/『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング

・ユングは偶然の一致を「時間の創造行為」と呼んだ ・宇宙人に誘拐されたアメリカ人は400万人もいる ・株式有料情報の手口 ・偶然の一致は壮大な宇宙の調和の現われ ・原子のの99.99パーセントは空間・『偶然とは何か 北欧神話で読む現代数学理論全6章』イ…

宇治少年院の歴史を変えた大縄跳び/『心からのごめんなさいへ 一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦』品川裕香

この大縄跳びが少年達を変えた。 それでもやはりうまくいかない。運動神経の悪い子が足をひっぱっていた。だれもがそう考えていたそのとき、一人の院生がこんなこを言いだした。 自分は跳べなかったら、下(中間期)からやり直さなあかん。ホントにダメなら…

名門高校生による殺人事件/『子供たちの復讐』本多勝一

二つの殺人事件を追ったルポ。いずれも被害者は家族で、犯人は高校生。しかも超がつくほど優秀な高校生だ。校内暴力という言葉がメディアに出るようになったのもこの頃だ(1979年)。 高度経済成長に伴って核家族化が進んだ。そして少子化によって、子供は“…

「パチスロ」は新しい利権だった/『警官汚職』読売新聞大阪社会部

黒田清率いる読売新聞大阪社会部は次々とユニークな連載記事を発信した。ジャーナリズムにも五分の魂があることを示した。東京の権力が及ばない地の利があったことは確かだろうが、やはり関西の反骨魂みたいなものを感じる。 本書は、警官の汚職を追及した骨…

ユングは偶然の一致を「時間の創造行為」と呼んだ/『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング

・ユングは偶然の一致を「時間の創造行為」と呼んだ ・宇宙人に誘拐されたアメリカ人は400万人もいる ・株式有料情報の手口 ・偶然の一致は壮大な宇宙の調和の現われ ・原子のの99.99パーセントは空間・『偶然とは何か 北欧神話で読む現代数学理論全6章』イ…

拘置所は時空を制限する/『死刑囚の記録』加賀乙彦

社会といえば聞こえはいいが、所詮「群れ」である。それは進化論的に見れば、「生きてゆくための群れ」に他ならない。で、コミュニティ(群れ)の目的は食糧確保と子孫を残すことだ。類人猿の代表選手であるチンパンジーの世界ですら、敵と認識されれば殺さ…

電通過労自殺事件/『自殺のコスト』雨宮処凛

過労自殺や過労死が示しているのは、「不作為による殺人」といっていいだろう。もちろん、“殺した側”に罪の意識はない。歩いている時に虫を踏んだ程度の罪悪感すらないことだろう。時に会社が社員を殺すという事実を我々はわきまえる必要がある。ある面から…

モルモン教の創始者ジョセフ・スミスの素顔/『信仰が人を殺すとき』ジョン・クラカワー

正式名称は「末日聖徒イエス・キリスト教会」。「モルモン書」と呼ばれる預言書を信じるがゆえにモルモン教とも称されている。日本だけで、何と320もの教会がある。 アメリカで実際にあった事件を辿ったノンフィクション。妻と幼い娘を殺害したのは実の兄弟…

アメリカ食肉業界の恐るべき実態/『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

・アメリカ食肉業界の恐るべき実態 ・翻訳と解釈・『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス ・『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー ・『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二…

腐敗しきった警察組織/『桶川ストーカー殺人事件 遺言』清水潔

・腐敗しきった警察組織 ・警察署ワースト3 ・埼玉県上尾警察署には「人間」がいなかった ・一流メディアと三流週刊誌・『去就 隠蔽捜査6』今野敏 ・『証拠調査士は見た! すぐ隣にいる悪辣非道な面々』平塚俊樹 ・『シャドウ・ストーカー』ジェフリー・ディ…

相手の痛みを理解できない子供達/『心からのごめんなさいへ 一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦』品川裕香

軽度発達障害の子が増えていると聞く。意思の疎通が難しいと、犯罪の要因ともなりかねない。こうした徴候の目立つ少年を、見事に教育している宇治少年院のルポ。我が子に対して「ちょっと変わっているな」と思ったことのある親御さんには是非読んで欲しい一…

『セックスボランティア』河合香織

衝撃的なタイトルだが、中身は「障害者の性」を扱った極めて真面目なルポ。文章も読みやすい。 竹田さんはビデオでこんな言葉を語っていた。 「介護を受けるってことは僕らにとっては最大の屈辱なんだ。我慢してるよ。生きるためにね」 【『セックスボランテ…

『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』佐藤幹夫

・『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳 ・『累犯障害者 獄の中の不条理』山本譲司 ・『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』佐藤幹夫・『永山則夫 封印された鑑定記録』堀川惠子 ・『オープンダイアローグとは何か』斎藤環著…

『獄窓記』山本譲司

予想していたとはいえ、やはり『累犯障害者 獄の中の不条理』の後に読んでしまうと、インパクトの弱さが否めない。それでも、文章の上手さでぐいぐい読ませる。先に読んでいれば、それなりの衝撃を受けたことだろう。 自伝的色彩が強く、菅直人氏の秘書にな…

モンスターペアレントの実態/『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』福田ますみ

・モンスターペアレントの実態 ・『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』その後 ・真相は藪の中・『実子誘拐ビジネスの闇』池田良子 ・『ポリコレの正体 「多様性尊重」「言葉狩り」の先にあるものは』福田ますみ 今時は教員になんかなるもんじゃないね…

『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』ジェームズ・R・チャイルズ

・『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦 ・『人が死なない防災』片田敏孝 ・『無責任の構造 モラルハザードへの知的戦略』岡本浩一 ・『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』ジェームズ・R・チャイルズ・『生き残る判断 生き…

『累犯障害者 獄の中の不条理』山本譲司

・『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳 ・『累犯障害者 獄の中の不条理』山本譲司・『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』佐藤幹夫 ・『永山則夫 封印された鑑定記録』堀川惠子 ・『オープンダイアローグとは何か』斎藤環著…

『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』上杉隆

「人間は物語に生きる動物である」――昨年以来、私はこう考えるに至った。思想とは物語を紡ぎ出す源泉であり、その究極が「宗教」だと思う。 前評判の高かった本書だが、一読して圧倒された。とにかく、「物語を編む力」が凄い。この作品は間違いなく、10年、…

『心にナイフをしのばせて』奥野修司

・『淳』土師守 ・『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子 ・『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子 ・『心にナイフをしのばせて』奥野修司・大阪産業大学付属高校同級生殺害事件 既に内容は、かなり知られていると思われるので、明か…

家族が交通事故の犠牲となる前に/『交通事故鑑定人 鑑定暦五〇年・駒沢幹也の事件ファイル』柳原三佳

・『記者の窓から 1 大きい車どけてちょうだい』読売新聞大阪社会部〔窓〕 ・家族が交通事故の犠牲となる前に・『あの時、バスは止まっていた 高知「白バイ衝突死」の闇』山下洋平 ・『自動車の社会的費用』宇沢弘文 ・『交通事故学』石田敏郎 警察庁の資料…

『SAS戦闘員 最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録』アンディ・マクナブ/伏見威蕃訳

好作品。途中、間を空けて読んでしまったために、その多くを失念(笑)。 ロクでもない少年が、特殊部隊の一員となるまでの自伝。とにかく、翻訳が素晴らしく、文体に違和感を覚えることがない。 下巻の途中に、やや中だるみはあるものの、全体の印象を損な…

生傷から病巣を覗いてみせる渾身のルポ/『紙の中の黙示録 三行広告は語る』佐野眞一

副題は「三行広告は語る……」。普段は目にも止めない三行広告であるが佐野の手腕にかかると恐るべき社会の現実が立ち現れてくる。ご存じのように、この手の広告はデザイナーやコピーライターを必要とすることもなく、略字などが多く使われていて、それだけに…

障害者プロレスを取り巻くそれぞれの人生/『ラブ&フリーク ハンディキャップに心惹かれて』北島行徳

障害者プロレス第2弾である。 北島の2冊目である。ペンが随分と落ち着いている。障害者と社会の間に存在する欺瞞をぶち壊そうと開始したプロレス興行が波に乗る。すると今度は、障害者が自分自身と向き合わざるを得なくなる。身体的な苦痛、将来への不安、家…

「地の塩の箱」~理想と絶望のはざまを生きた詩人を追跡/『昭和の根っこをつかまえに』北尾トロ

このシリーズはオンライン・テキストで公開されている。飄々としたポップな文体で知られる北尾が、ややジャーナリスティックな構えで、平成に生き残る“昭和の根っこ”を捉えた作品。いずれの対象も“残滓(ざんし)”と軽々しく言うことがためらわれるような、…