古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

龍樹「縁起なるものそれを空性と呼ぶ」

 縁起なるものそれを空性と呼ぶ。それ(空性)は仮説であり、中道である。(『中論』二十四章第一八偈)


 ここで龍樹が「縁起」と呼ぶものは現象世界であるが、厳密にいうならば言葉によって表現された世界のことである。例えば、「人が歩く」という言葉(命題)によって表現されている人と歩く動作とは、縁起の関係にあると龍樹は考えた。「人が歩く」とう縁起の世界(現象)は、究極的な立場では空性()であり、そこでは言葉は止滅(しめつ)しているという。


【『最澄空海 日本仏教思想の誕生』立川武蔵〈たちかわ・むさし〉(講談社選書メチエ、1998年)】


最澄と空海―日本仏教思想の誕生 (講談社選書メチエ)