書評:専門書

心臓の鼓動が体中にメッセージを伝えている可能性もある/『心臓は語る』南淵明宏

著者は『ブラックジャックによろしく』という漫画作品に登場する北三郎のモデルとなった人物。テレビ東京の「主治医が見つかる診療所」で見たことがある人も多いだろう。(※画像検索) わかりやすい文章で心臓を解説。日本の医療に対する苦言も綴られていて…

統一教会の霊感商法/『霊と金 スピリチュアル・ビジネスの構造』櫻井義秀

タイトルが上手い。素人向けの宗教社会学ともいうべき内容。真摯かつ真面目な考察。ま、面白味には欠けるわな。 宗教とカネ。信じる者と書いて「儲ける」とはいうなり(笑)。なぜ信仰にカネがかかるのだろうか? それは宗教が生け贄(にえ)を必要とするか…

日米安保という幻想/『日本人のための戦略的思考入門 日米同盟を超えて』孫崎享

孫崎享〈まごさき・うける〉を初めて知ったのは、岩上安身のUSTREAMインタビューでのこと。そのフランクな物腰から元外務官僚であるとは伺い知れなかった。どこから見ても「近所のオジサン」である。実はそこにこの人の凄さがある。仕立ての良さそうなスーツ…

バイオホロニクス(生命関係学)/『生命を捉えなおす 生きている状態とは何か』清水博

読書には時機というものがある。タイミングだ。長ずるにつれ、知識の枝は天を目指して複雑に枝分かれしてゆく。そして生の現実が地中に根を張り巡らす。 不幸にして本書はタイミングが合わなかった。1978年に出版されながら、今まで知らなかったのは、私の守…

強靭なロジック/『ジャパン・レボリューション 「日本再生」への処方箋』正慶孝、藤原肇

ツイッターが面白くて、書評を書く意欲が失せている今日この頃である。そして季節は夏だ。夏に本は似合わない。ジリジリと焼きつけるような太陽の下で本を読んでいるのは、ま、私くらいなものだろう。 この本は、藤原肇の公式サイトで知った次第。 平野貞夫v…

大英帝国の発展を支えたのは奴隷だった/『砂糖の世界史』川北稔

大英帝国の発展を支えたのは奴隷だった 『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン 貿易の二大スターは織物と砂糖だそうだ。万人が欲するヒット商品が現れた時、世界はどのように動くかがわかりやすく描かれている。こういう…

その男、本村洋/『裁判官が見た光市母子殺害事件 天網恢恢 疎にして逃さず』井上薫

その男には怒りが燃え盛っていた。圧倒的な怒りが男を衝き動かしていた。怒りの矛先(ほこさき)は犯罪とそれを取り巻く社会に向けられていた。本村洋は単なる被害者ではなかった。「殺害された妻」の夫でもなかった。彼は「正義そのもの」であった。 本書を…

コミュニケーションの第一原理/『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』P・F・ドラッカー

「はじめて読むドラッカー【自己実現編】」と表紙にある。ドラッカー入門という位置づけの抄録。しかしながら単なる抜粋の寄せ集めではなく、ドラッカー思想のエッセンスが結実している。 ただし、やはりと言うか、案の定と言うか、思想のドライブ感に欠ける…

戦いて勝つは易く、守りて勝つは難し/『呉子』尾崎秀樹訳

戦いて勝つは易く、守りて勝つは難し 『中国古典名言事典』諸橋轍次 「孫呉の兵法」と呼ばれ、『孫氏』と並び称されているのが『呉子』である。書いたのは紀元前4世紀初頭に活躍したとされる呉起。見識というよりも智慧といった方が相応(ふさわ)しい。精緻…

兵とは詭道なり/『新訂 孫子』金谷治訳注

兵とは詭道なり 吾れ此れを以て勝負を知る 兵は拙速なるを聞くも、未だ功久なるを睹ざるなり 『中国古典名言事典』諸橋轍次 この一言こそ、孫子の孫子たる所以(ゆえん)である―― 兵とは詭道(きどう)なり。故に、能(のう)なるもこれに不能を示し、用なる…

ターミナルケアを「医療」の枠にはめるな/『ケアを問いなおす 〈深層の時間〉と高齢化社会』広井良典

介護保険の導入が2000年なので、それを睨(にら)んで執筆したものと思われる。発行から既に10年以上経過しており、時期を逸した感もあるが、それでも有益さが損なわれることはない。 広井良典が説くのは「思想としてのケア」であり、「ケアという行為」から…

日本のデタラメな論功行賞/『孫子 勝つために何をすべきか』谷沢永一、渡部昇一

これは一昨年(おととし)に読んだ。私の知らないうちに谷沢永一が保守派の論客となっていた。しかしながら、プラグマティズムの要素が色濃く、実際的な発想となっている。 戦時において、時に上官の命令を無視することで勝利を得るケースがある。だが、軍隊…

同居家族が老人を孤独へ追いやる/『自殺死体の叫び』上野正彦

同居家族が老人を孤独へ追いやる 最も多い自殺原因は「経済生活問題」 作為的に死を選ぶのは邪道 『自殺の9割は他殺である 2万体の死体を検死した監察医の最後の提言』上野正彦 リラックスした筆致が読みやすい。回顧調も心地よい。著者は監察医という立場で…

性はアイスクリームを食べるのに似ている/『エロスと精気(エネルギー) 性愛術指南』ジェイムズ・M・パウエル

これはめっけものだった。華麗な文章で奥深い世界に迫っている。 また別の文化では、性はアイスクリームを食べるのに似ている。未経験の人にとってアイスクリームのひとすくいは冷たくて味気無いものかもしれないが、実はひそかな深い味わいをもっている。ポ…

体験が人を変える/『宇宙からの帰還』立花隆

私は本書で初めて立花隆を知った。『田中角栄研究』(1976年)や『日本共産党の研究』(1978年)が出た頃はまだ中学生であった。 今となっては既に手垢がついてしまった「知」という言葉も、本書が刊行された頃はまだ啓蒙の薫りを放っていた。「知」は確かに…

情報が戦局を左右する/『落語的学問のすすめ Part2』桂文珍

「ストレス」という言葉をやたらと聞くようになった後、「情報化社会」と言われ始めたと記憶している。昭和50年代の後半ぐらいだと思う。 Wikipediaでは、「1990年代半ばにインターネットや携帯電の普及に伴って」としているが、それ以前から人口に膾炙(か…

心と体の適応力/『文明の逆説 危機の時代の人間研究』立花隆

私が初めて読んだ立花隆の作品である。それぞれのテーマは実に興味深いものであったが、どうもこの人の「マス視線」が気に入らない。文明を俯瞰し過ぎているように感じたことを覚えている。 同じストレスを受けても、人によって心と体の適応力がちがう。体が…

「笑い」は知的作業/『落語的学問のすゝめ』桂文珍

関西大学での講義を編んだもの。報酬の安さを何度も嘆いているのがご愛嬌。私は上方芸人はあまり好きじゃないのだが桂文珍は例外。この人は、「面白がる力」が図抜けている。 この本で最も有名なのは以下の指摘―― だいたい人間ちゅうのは、悲しい映画を一緒…

生産性の追及が小さな犠牲を生む/『知的好奇心』波多野誼余夫、稲垣佳世子

資本主義という運動会では、皆が皆走り回っている。いや違うな。ともすると、競争原理という言葉が合理を象徴しているように見えるが、実際はもっと残酷だ。足の遅い者が落伍する仕組みなのだから。つまり、資本主義は鬼ごっこなのだ。 鬼となった連中には、…

神話を覆す否定性/『ゲーデル・不完全性定理 “理性の限界”の発見』吉永良正

ソクラテスやピュタゴラスのもとでは、多くの女性が学んでいた。しかしその後の女性からは、学ぶ機会が奪われた。中世にあって西洋では聖職者にならない限り、男性ですら専門的な勉強はできなかった。そして、魔女狩りの嵐がよりいっそう女性蔑視を駆り立て…

社会学者が『妖怪人間ベム』を鮮やかに読み解く/『男らしさという病? ポップ・カルチャーの新・男性学』熊田一雄

ジェンダー論は小難しい。いや、もっとはっきり言おう。面倒臭いのだ。「それは差別に決まっているでしょ。でも、本質的な違いってあるのよね」と言われたら、「勝手にしてくれ」と返答するしかない。 本当の問題は、「性差に基づく社会的・制度的・思想的差…

学問は目的であっても手段であってもならない/『社会認識の歩み』内田義彦

「一体全体、どっちなんだよ?」と言ってはいけない。 学問が手段化されることは、一人一人の人間が手段化されることと無関係ではありません。学問は、自己目的であってはならないけれども、単なる手段であってもならない。学問の自己目的化と手段化という古…

社内文化に染まっている人は「抵抗勢力」となる/『制度と文化 組織を動かす見えない力』佐藤郁哉、山田真茂留

目的があるからこそ組織される。そして、組織が出来上がると、今度は「組織を維持すること」が目的となってしまい、当初の目的が見失われる。こうして、組織の硬直化が始まる。 どうでもいい朝礼、マネジメント能力を欠いた上司、不平等極まりないポストなど…

悪しき「私化」の進行/『男らしさという病? ポップ・カルチャーの新・男性学』熊田一雄

サブカルチャーから読み解くジェンダー論といった内容。軸足がジェンダー論にあるため難解な点もあるが、アニメや漫画に言及することで身近な問題として考えることができる。 以下は、石原慎太郎のテキストに対して賛否両論を示した件(くだり)―― 私流に言…

『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』ジェームズ・R・チャイルズ

50あまりの事故を取り上げ、その原因を検証。いずれも、小さなミスと油断が取り返しのつかない大事故、大惨事の導火線になっている。専門用語が多いが、達意の文章で読ませる。少しばかり難を言えば、過去の歴史を引っ張り出した際に時系列がわかりにくくな…

『ウェブは資本主義を超える』池田信夫

買おうかと思ったのだが、横書きであったのでやめた。元々好き嫌いが激しい性格なのだが、年を経るにつれ強化されつつある(笑)。横書きの日本語は、漢字の香りを失わせ、妙に規格化された印象を受ける。どんなに英語表記を引用したとしても、日本語で書か…

『筆跡鑑定ハンドブック』魚住和晃

もう半世紀以上も前、カナダの医師ペンフィールドによって、大脳部位に運動野という人体の運動機能に関する命令系統の存在が指摘され、「体部位局存性」という分布図が示された。それによると、手に対する領域が他を圧倒し、とりわけ親指の領域が大きい。こ…

『死とどう向き合うか』アルフォンス・デーケン

「死生学」の権威が認める“尊厳死”に疑問 ノリ太(英国でオンライン古書店を営む私の弟子)に薦められ、デーケンの本を始めて読んだ。「死生学」とは、死をどう捉え、どう理解するかを学ぶ学問。著者はドイツ生まれで現在、上智大学文学部教授。過去に、アメ…

『ルネッサンスパブリッシャー宣言』松本功

出版界に一石を投じる内容だ。著者が起こした波紋は、売ることに汲々として来た業界の迷妄を醒ますに十分なものがある。 冒頭で「基礎の本」に対する危機感を表明。「基礎の本」とは、新書の巻末などで参考文献として挙げられているような本を指す。確かに浮…