古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

2000-08-01から1ヶ月間の記事一覧

扉/『千日の瑠璃』丸山健二

私は扉だ。 語り手はまほろ町に建てられたばかりの暴力団事務所の扉だ。頑丈極まりない扉が据え付けられて事務所は完成する。 うわべは平凡そのものでも、しかし私の内側には分厚い鋼鉄の板が2枚も仕込まれていた。私を横眼で見ながら素早く通り過ぎる町の人…

落ち葉/『千日の瑠璃』丸山健二

小説の好みは人によって様々であり、何に対して痺れるかは人それぞれの見解があろう。あるいはまた、小説などという作り事は読むに値せず、とする人もまま見受けられる。そこには、作家が勝手気ままに、都合良くストーリーをデッチ上げることへの侮蔑が感じ…

靴/『千日の瑠璃』丸山健二

丸山は現状維持に安住する小市民の描き方が非常に巧い。向上心なき人間を辛辣な表現で串刺しにする。その激しさが戯画的な効果を生み、操り人形を見せられているような気になってしまう。 私は靴だ。 踵が摩滅し、とうとうつま先の部分がぱっくりと割れた、…