2001-05-01から1ヶ月間の記事一覧
ストレートを全力で投げ込むような小気味好さが溢れている。青春時代の挫折・亡き夫(新田次郎)への慕情・満州からの命懸けの生還・ユニークな教育論などが語られている。重いテーマがほとんどであるにもかかわらず明朗な語り口になっているのは、単なる懐…
(『笑うな』所収/徳間書店:絶版、現在は新潮文庫) パロディの精神とはシニシズムなのであろうか。あらゆるものを見下し、自分を高みに置き、鼻で笑って済ます態度を指すのであろうか。私はそうは思わない。笑って達観してみせる知性は、弱きを助け強きを…
母親が我が子を殺し始めるようになった昨今、世間は並大抵のことでは驚かなくなった。特攻隊が叫んだあの「お母さん」はどこへ行ったのか。自分の都合・勝手・わがまま・欲望・体裁を最優先にした時から、お母さんはいなくなった。静まり返った場所で声に出…
艶っぽい話が多数出てくる。それもそのはず前半は題して「西鶴十話」。男女のいかがわしい話しが大半なのだが、なんとも言い難い趣がある。あっさりとした軽妙さといおうか、離れた位置で嗤(わら)っているような醒めた視線がある。“粋”という美学が文章に…
・死なず殺さず25歳 かね子さんの極私的ホームページ。メインは日記。「本箱」に5段階評価つきの短いコメントがある。読み手の顔が見えるランナップだ。だが、なんといっても日記である。これは配信されていて「メールマガジンの説明」でバックナンバーを読…
ドイツでは捨て子対策として「置き去り箱」が設けられた。1年前に初めて設置されたハンブルクでは、既に6人の赤ちゃんが。37度に保たれた小さなベッドに赤ちゃんが寝かされると、近所のボランティア宅のアラームがなるという仕組み。 「出産した人が育てない…
真っ当な言葉に込められた瑞々しい生命力 力のこもった詩のオムニバス。つるはしを振るうように言葉が突き刺さってくる。経済の太陽に先駆けて、確かな黎明を告げる逞しい声がここにはある。以前、紹介した「便所掃除」も収められている。 いつの日から か …
近所の雑貨屋を出ようとした時だった。ドアのガラスの向こうに少年が現われた。ドアが外に開く作りになっていたので、私は少年が先に入るのを待つ格好になった。両手に荷物を持ったまま少年を見下ろす私。少年はドアを開けると、背中でドアを押さえたまま立…
痛快な本である。おまけに愉快ときたら読む他あるまい。以前からタイトルが気になってしようがなかった本書をやっと読んだ。著者は現在、共立女子大学の文学部教授。『ユリイカ』の連載が編まれたもの。19世紀フランス小説を専門とする著者が、フランス語の…
変な気持ちを真面目な行動に移した本である。誰もが今直ぐ実践できるフィールド・ワーク。 知らない人を尾行するという行為には、なんとも言い難い後ろめたさみたいなものがあるし、覗き見をしているようなトキメキもある。つまり尾行には、おおっぴらにはで…
心に染み入る言葉 目を瞠(みは)る言葉がある。並べられた言葉の遥か彼方から、書き手が見つけた真珠のような何かが、迫力を持って私の目前に立ち現われる。そんな詩句が紹介されていたので、皆さんにも、おすそ分けしよう。 タイトルは「本よむ人の歌」。…
・読者と記者が奏でる喜怒哀楽のハーモニー・『交通事故鑑定人 鑑定暦五〇年・駒沢幹也の事件ファイル』柳原三佳 ・『あの時、バスは止まっていた 高知「白バイ衝突死」の闇』山下洋平 ・『自動車の社会的費用』宇沢弘文 ・『交通事故学』石田敏郎 黒田軍団…
・『メッセージ 告白的青春論』丸山健二 ・7度の推敲の跡なし 買わなくてよかった、と心底思いながら私は本をパタンと閉じた。上巻117ページに「よしんば」が3回出てきた直後のことだ。「野郎、嘘をつきやがったな」と私は心の中で呪った。「貴様、7度の推敲…
何を隠そうくらもちふさこのファンである。それも高校生の時からだ。別冊マーガレットに連載されていた『いろはにこんぺいと』を読んで、見事にはまってしまった。本書はその続編で、中学生になった「クンちゃん」が主人公。達(とおる)とチャコは脇役だ。 …
ノリ太(英国でオンライン古書店を営む私の弟子)に薦められ、デーケンの本を始めて読んだ。「死生学」とは、死をどう捉え、どう理解するかを学ぶ学問。著者はドイツ生まれで現在、上智大学文学部教授。過去に、アメリカ文学賞(倫理部門)や菊池寛賞を受賞…
またしても石田善彦の訳である。「その凶報をもたらしたのは、執筆のローリングだった」。冒頭一行目から、これだ。どう考えても「執事」である。校正の問題なのかも知れないが、石田の名前しか表記されてないので、取り敢えずは石田を悪者にしておこう。 私…
あのカオルちゃんが主役である。生存している間に一度お目にかかりたいものだ。ただし近距離は遠慮したい。非合法地帯というか、暴力による民主主義とでもいう他ない岸和田が舞台。私もそれなりに悪い人間は見てきたつもりだが、中場の作品に触れると品行方…
前に紹介した丸谷才一の『思考のレッスン』(文藝春秋)にこういうくだりがあった。「思考の準備において最も大切なのは読書である。そして、読書のコツは、その本を面白がること。面白くない本は読むべからず」(趣意)。更に本の選び方として「書評を読む…
光州事件を題材にした版画集である。映画のパンフレットほどの体裁。 これほど太い線で、どうしてここまで繊細な表情を描き出せるのかが不思議だ。縄に繋(つな)がれ一列で進む人々。一様に打ちひしがれ、うなだれ、膝を屈し、狭い歩幅で歩かされている。5…
またしても漫画である。休日には、やはり漫画が似合う。これは先日、注文して、やっと今日届いた作品。 孤立せよ… ――これが1ページ目にアップで書かれている。少しバランスの悪い明朝体が、木に彫られた文字のように見える。真っ黒な背景の中から浮き上がる…
あり得ないリアル 今では既に古典の感がある作品だ。奥付けを見ると1983年とあるから、私が丁度、二十歳(はたち)の時だ。同じ頃にスティーヴン・キングの『ファイア・スターター』(新潮文庫)が出たせいか、どこか似た印象を受けたままになっている。友人…
・『メッセージ 告白的青春論』丸山健二 ・殴られる心地好さ 私は軽井沢の地にいた。新世紀初のゴールデン・ウィークを、余りにも有名となった避暑地で優雅に過ごす予定だった。2日に出発。クルマで向かう途中、怪しげな顔を見せていた雲がパラパラと雨を落…