書評:エッセイ

「謀叛論」徳冨蘆花/『日本の名随筆 別巻91 裁判』佐木隆三

2週間ほど前になるが、次々とリンクを辿っていたところ山口二郎のブログに辿りついた。何の気なしに「プロフィール」のページを開くと、そこに座右の銘が記されていた。「新しいものはつねに謀反である(徳富蘆花)」と。 山口二郎といえば東大法学部の俊逸…

プラハで学んだ少女達の30年後の真実/『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』米原万里

プラハで学んだ少女達の30年後の真実 ペンは剣よりも強し チャウシェスク大統領を処刑した理由 『打ちのめされるようなすごい本』米原万里 米原万里は9歳から14歳にかけて、プラハのソビエト学校に通った。1960年代のことである。人種が入り乱れるクラスで、…

本当のスピードは見えない/『「勝負強い人間」になる52ヶ条 20年間勝ち続けた雀鬼がつかんだ、勝つための哲学』桜井章一

桜井章一は感性の人だ。ただし並みの感性ではない。麻雀の世界で20年間という長きに渡って敗れたことのない感性なのだ。これだけの期間において桜井の感性は磨き続けられてきたはずだ。そして、「勝つことに飽きた」桜井は第一線を退いた。 真理というものが…

晩飯を食うのもあと千回くらい/『あと千回の晩飯』山田風太郎

多分、老いに差し掛かった年齢で読めば違った感想を抱くことだろう。40代の私にとっては、枯れた印象しか残らなかった。あるいは、朽ち果ててゆく人間の意地や悪あがきといったところか。 『人間臨終図巻』が持つ濃厚さとは無縁だ。勢いの弱くなった筆文字を…

運とは流れ/『運に選ばれる人 選ばれない人』桜井章一

運命なんぞにはとんと興味のない私だが、20年間無敗の雀鬼が語る「運」には耳を傾けざるを得ない何かがある。「運」というよりは「流れ」であり、「変化」を敏感に感じ取り、つかまえることが大切であると桜井章一は説いている―― 運命を変えるには単に信念を…

「知識」は手段に過ぎない/『独創は闘いにあり』西澤潤一

西澤潤一は東北大学総長、岩手県立大学学長学長を歴任し、現在は首都大学東京の学長。「光通信の父」であり、「ミスター半導体」とも呼ばれている。発明現場での格闘を綴ったエッセイ。実は私が生れて初めて買った古本で、それだけに思い入れが深い。役所が…

松下幸之助の自負/『若さに贈る』松下幸之助

ちょうど一年前、松下電器産業はパナソニックに社名を変更した。「ナショナル」という名前も消えた。 “経営の神様”は尋常小学校を4年で中退し、丁稚奉公に出された。大阪の路面電車を見て感激し、電気に関わる仕事を志す。電球の取り外しができるソケットを…

教育とは政治的なもの/『深代惇郎エッセイ集』

「天声人語」がコラムの代表格となったのはこの人の功績が大。澄明な思考が蝶の舞うように記されている。真のリベラリズムがここにはある。 ある中学校の先生が、生徒をつれて京都の桂離宮を見学した。美しい庭園を前に、この庭をつくるために封建大名がいか…

かつて心とナリフリは一致していた/『男の衣裳箪笥』古波蔵保好

瀟洒(しょうしゃ)なエッセイ。読み終えた後で、向井敏が絶賛していたことを知り、随分と気をよくしたものだ。まだ二十歳(はたち)の頃の話。そういや、VANやJUNが潰れたのも同じ時期だった。 ところで、日本では、ナリフリはどうでも、リッパな心を持つこ…

逆境が試す人間の真価/『生きること 学ぶこと』広中平祐

広中平祐といえばフィールズ賞である。彼の受賞によって、私はフィールズ賞なるものの存在を知ったくらいだ。ノーベル賞って数学がなかったんだね。創始者のノーベルと某数学者の不仲が影響しているとも囁かれている。 功成り名を遂げたからといって、道徳を…

戦後を支えたのは政府ではなく女性だった/『見よぼくら一戔五厘の旗』花森安治

頼んでもいないのに銃後を守らされた女達が、戦後は走らされる羽目となる。男どもは、せめてお母さんの肩くらい叩いてあげるべきだろうな。 終戦のとき、なにかでみた一枚の写真を、ぼくはいまでもおぼえている。 汽車であった。いっぱいの人がぶら下ってい…

羽生善治の集中力/『決断力』羽生善治

『聖の青春』大崎善生 『将棋の子』大崎善生 『棋士という人生 傑作将棋アンソロジー』大崎善生編 羽生善治の集中力 『真剣師 小池重明 “新宿の殺し屋"と呼ばれた将棋ギャンブラーの生涯』団鬼六 『赦す人』大崎善生 明晰な頭脳を窺わせる文章で読みやすい。…

オムツにしない工夫こそが介護/『老人介護 常識の誤り』三好春樹

入力したテキストを見直していたところ、書き忘れていることに気づいた。ここのところ、読むペースが異様に速い。ちなみに私は、「紙」というテキスト編集ソフトを使用している。 時間の概念を持つのは人間だけだとされている。果たして本当なのだろうか? …

『老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた』三好春樹

これほどエッセイを堪能したのは、古波蔵保好著『男の衣裳箪笥』以来かもね。介護というのは、人生の最終ステージにおける人間ドラマである。それゆえ、誰もが「される側」になったり、「する側」になる可能性がある。 まず、三好春樹氏の顔がいい。どこかで…

『見よぼくら一戔五厘の旗』花森安治

B5版で3段組、写真も豊富。『暮しの手帖』の名編集長・花森安治氏の自選集。昭和40年前後に書かれたものが多く、戦時中の記憶を辿った内容が多い。とにかく文章が勁(つよ)い。敗戦直後から暮らしを見つめる眼差しはぶれることなく、炯々(けいけい)と光を…

『自分自身への審問』辺見庸

なぜこんなことを言うのか。変な話ですが、〈見る〉あるいは〈視る〉、〈診る〉、〈視認する〉、〈目視する〉、〈監視する〉、〈観察する〉、〈視察する〉という言葉と行為に、ぼくは病前から朧(おぼろ)に怪しいもの、何だか不遜なもの、特権的なもの、優…

『いまここに在ることの恥』辺見庸

無神論者であることを白状しながら『自分自身への審問』という著作を出し、次にあたかも武士道を思わせるこのタイトルである。マルクス・レーニン主義者であることを払拭したいのだろうか? 「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」という。一人がでたらめを語ると…

『人生を掃除する人しない人』桜井章一、鍵山秀三郎

『人生を掃除する人しない人』桜井章一、鍵山秀三郎 『人生がときめく片づけの魔法』近藤麻理恵 生活感覚――鍵山秀三郎 生活感覚のない人間は、ロボットより悪い。ロボットのほうがまだいいと思います。 なぜこんなことになったか。いろいろ原因はありますが…

『ベラボーな生活 禅道場の「非常識」な日々』玄侑宗久

ラジオから流れる朗読に耳を奪われた―― 汗っかきほど蚊が寄ってくる。横一列に並んで坐っていると、色白で汗っかきの先輩のほうに蚊が寄っていくのが見えることがある。しかしむろん、全ての蚊がそちらに行くわけではない。「私の血は、きっとまずいよ」なん…

『本のお口よごしですが』出久根達郎

嗜好(しこう)にまつわる話は何とも言い難い楽しさがある。好事家(こうずか)について回る「狂」の度合いが大きいほど楽しい。抑えることのできない物欲が、人間の愚かさを滑稽に表現しているためであろうか。 出久根達郎のエッセイにこういうのがある。 …

『風貌』土門拳

土門拳による肖像写真とエッセイ。現場風景が描かれることによって写真の凄味がぐっと増している。後書きで書かれている「梅原龍三郎を怒らせた話」が面白い。 写真嫌いの梅原に対して土門が色んなポーズを要求する。土門は「僕の邪推によれば、写真というも…

『妻として母としての幸せ』藤原てい

全編に漲(みなぎ)る全力疾走の爽快さ ストレートを全力で投げ込むような小気味好さが溢れている。青春時代の挫折・亡き夫(新田次郎)への慕情・満州からの命懸けの生還・ユニークな教育論などが語られている。重いテーマがほとんどであるにもかかわらず明…

『思考のレッスン』丸谷才一

知識の豊富な人の本だから、まあ、それなりには面白い。読んで損はしないと初めに断っておこう。レッスンというタイトルがついているものの、押しつけがましさは全くない。その上、対談形式なので大変わかり易い。 読書に対して何を求めるかは人によって様々…

『お宝ハンター鑑定日記』羽深律

数ヶ月振りに本を読んだ。 手持ちの本を売るようになってからというもの、全く読書する意欲が失せていたのだが、本書を読んだのにはワケがある。実は、著者から直接頂いたのだ。私は抜け目なく「読んだら売りますぜ」と御礼の後に付け加えておいた。 古物商…

言いわけする哲学/『われ笑う、ゆえにわれあり』土屋賢二

言いわけする哲学 『こぐこぐ自転車』伊藤礼 凄まじい哲学が誕生した。一言で言うならば「言いわけする哲学」! 鋭い弁解の数々は英知に裏づけられ、際限のない揚げ足取りを集中力が支える。不況に喘ぐ世紀末を生き抜く者にとっては必読の書と言えよう。抱腹…

『小説家の覚悟』丸山健二

孤独な魂が発する鮮烈なメッセージ 痺れた。心が震えると言うよりは、痺れたと言った方が正確だ。打たれたと言ってもよい。地震ではなく雷のそれだ。 私が始めて丸山の作品を手にしたのは、今から7年前のことだ。以前から探していた『メッセージ 告白的青春…