書評:言葉

毒舌というスパイス/『世界毒舌大辞典』ジェローム・デュアメル

この本を持ち歩いていたところ、「これ以上毒舌になるつもりですか?」とある女性から言われた。「もっと磨きをかける必要がある」と私は答えた。トイレに一冊置いておけば、あなたも毒舌家になれるかも(笑)。 毒舌道は奥が深い。諧謔(かいぎゃく)、諷刺…

九日目と十日目にドラマが起こった/『13日間で「名文」を書けるようになる方法』高橋源一郎

紛(まが)うことなき経典本といっていい。同じく明治学院大学の講義を編んだものとしては、加藤典洋著『言語表現法講義』が先に出版されているが、こちらは徹底的に技術志向であったのに対して、高橋本は文を書く営みの根源をまさぐっている。 「自由にもの…

擬音語・擬態語 英語は350種類、日本語は1200種類/『犬は「びよ」と鳴いていた 日本語は擬音語・擬態語が面白い』山口仲美

私は犬を見かけると、ほぼ必ず「バウワウ!」と吠えるようにしている。本当の話だ。何を伝えようとしているのかというと、「俺は外国の犬だぞ!」というメッセージである。もちろん、わかってもらえることは滅多にない。 果たして日本の犬が「ワンワン」と鳴…

文章の職人芸/『言語表現法講義』加藤典洋

知的興奮を掻き立てられること間違いなし。文章を書いている人も、書く予定のない人も読むべきだ。人間は表現せずにはいられない動物である。何をどう表現するかは感性によるところが大きいと思われるが、やはりそれなりの技術も必要だ。そうでないと、単な…

「存在」という訳語/『翻訳語成立事情』柳父章

この手の本はもっと軽い内容で書いてもらいたい、というのが私からのお願いだ。簡潔な文章だと尚いい。本書は言葉の文化的背景に迫っているため、やや重厚な雰囲気が漂い、読者を選ぶ格好になってしまっている。 こうして考えると、私たちが西欧哲学の翻訳を…

視覚は高尚な感覚/『ゲーテ格言集』ゲーテ

5月11日に父が倒れた。そして、22日に逝ってしまった。短気な性分だったので長く入院することを嫌ったのかもしれない。 父が倒れたのは脳幹出血によるもので、直後に意識不明となった。数日後、左手・両足などに不随意運動が見られたが、意識が戻ることはな…

傅山の書「老」/『一日一書』石川九楊

京都新聞連載のコラム。一日一書(一文字)を解説。わずか150字足らずで「書の宇宙」に誘(いざな)うのだから凄い。古代から現代に至るまでの文字を紹介。百花繚乱の趣あり。石川九楊は、農耕を基とする「東アジア漢字言語圏」というパラダイムを主張し続け…

現代人は健康を味わえない/『人生論ノート』三木清

幸福は外に現れる 現代人は健康を味わえない 名誉心について 人間の虚栄心は死をも対象とすることができる 真の懐疑は精神の成熟を示すものである 断念する者のみが希望することができる 我が青春の一書。初出は、「文学界」1938(昭和13)年6月〜1941(昭和…

最も卑しい感情/『蝿の苦しみ 断想』エリアス・カネッティ

私の知っている中で最も卑しい感情は、弾圧される人々への嫌悪である。そういった感情のせいでわれわれは、弾圧される人々の特徴を理由にして、弾圧を正当化しうるように思うのだ。きわめて高貴で公正である哲学者さえ、こういう感情をまぬがれていない。 【…

社会を構成しているのは「神と向き合う個人」/『翻訳語成立事情』柳父章

明治以前、日本に「社会」は存在しなかったの続き。 当時、「国」とか「藩」などということばはあった。が、societyは、窮極的には、この(2)でも述べられているように、個人individualを単位とする人間関係である。狭い意味でも広い意味でもそうである。「…

豊かな語りの文化/『タレントその世界』永六輔

永六輔による聞き書きシリーズ三部作の一つ。岩波書店から『芸人 その世界』と『役者 その世界』は復刊されているのだが、本書は絶版のまま。岩波に都合の悪い内容でもあるのだろうか? 講談は読むという。 義太夫は語るという。 落語は話すという。 長唄は…

幸福は外に現れる/『人生論ノート』三木清

幸福は外に現れる 現代人は健康を味わえない 名誉心について 人間の虚栄心は死をも対象とすることができる 真の懐疑は精神の成熟を示すものである 断念する者のみが希望することができる 新年、明けましておめでとうございます。本年も宜しくッス。 さて、新…

跳躍する言葉 予測不能なアフォリズム/『蝿の苦しみ 断想』エリアス・カネッティ

友岡雅弥著『ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う』には様々なパラグラフが挿入されているのだが、最も衝撃を受けた言葉がこれ―― 世界の息吹から遠ざけられて、おまえは、息吹どころか風も入らない牢獄に入れられているの…

天才とは――/『ナポレオン言行録』オクターブ・オブリ編

言行録の極めつけといえば本書。言葉の端々に純然たる栄光と名誉がほとばしっている。満々たる自信なのか、はたまた単なる傲慢なのか。紙一重の相違ではあるが、ナポレオンの言葉には男の心を震撼させる響きがある。言動とは信じ難いほどの、「見事な文体」…

明治以前、日本に「社会」は存在しなかった/『翻訳語成立事情』柳父章

元始の言葉はどんなものであったのだろう。時折、そんなことを思う。叫び、祈り、歌――いずれにせよ、何らかの感動が込められていたに違いない。しかしながら残念なことに、最初の言葉は名詞であったという説が有力だ。ヘレン・ケラーが最初に発した言葉も「ウ…

歴史とは「文体(スタイル)の積畳である」/『漢字がつくった東アジア』石川九楊

凄い言葉だ。中々出て来るものではあるまい。さすが“漢字思想の語り部”石川九楊である。タイトルだけでは意味が理解しにくいと思われるが、以下のテキストを読めば多少なりとも腑に落ちることだろう。 まず歴史とはいったい何でしょうか。歴史というのは、過…

『筆跡鑑定ハンドブック』魚住和晃

もう半世紀以上も前、カナダの医師ペンフィールドによって、大脳部位に運動野という人体の運動機能に関する命令系統の存在が指摘され、「体部位局存性」という分布図が示された。それによると、手に対する領域が他を圧倒し、とりわけ親指の領域が大きい。こ…

『タレントその世界』永六輔

忘れ難い本がある。いたく感動した作品なんぞもそうなんだが、探し続けた挙げ句にやっと見つけた本の方が生々しい記憶となって脳味噌に刻み込まれている。私の場合だと、丸山健二の『メッセージ 告白的青春論』(文藝春秋)や、ハリソン・E・ソールズベリー…

『二重言語国家・日本』石川九楊

ある種の手品を見ているような気にさせられる本である。出るはずのない場所から鳩が現れたり、こちらが持っている札をピタリと当てられた瞬間に立ち上がって来る驚愕を随所で感じてしまう。手品に使われる道具は――漢字のみである。著者はタネを明かしてみせ…

『日本語 表と裏』森本哲郎

人は言葉を介して他人や事物を理解し、言葉を用いて思考し、言葉を発して自己を表現する。人はまさしく言葉に生きる動物であるといってよい。 誰しも言葉を自由に扱っているつもりになっていよう。欲求を示すに当たっては幼児期の「ママ」に始まり、愛の告白…

『現代作家100人の字』石川九楊

文字を読む──言葉の意味を探るのではなく、筆跡を読む。線の一本一本に込められた“何か”を読み取ろうと丹念に注がれる視線は、点の打ち所をも見逃さない。京都芸術短大講師を務める書家が、現代作家100人の文字を眼光鋭く洞察する。写真を含めてわずか一ペー…

『ことばの国』清水義範

笑いが止まらぬパスティーシュ言語学 いやあ、笑った笑った。電車の中で笑いをこらえるのに一苦労した。俯(うつむ)いて本で顔を隠しても「くっくっくっくっ」と笑い声が漏れてしまうのだ。総武線快速で向かい合って座った若い女性が、呆れ返った表情でジロ…

近代を照らしてやまない巨星/『ナポレオン言行録』オクターブ・オブリ編

男の本能を掻き立てて止まないものが、ここにはある。 18世紀から19世紀にかけて光芒を放った巨大な彗星、その名ナポレオン。 彼の生涯の浮沈の曲線はかくして完全である。それは地平線の全体を包容している。彼は25歳にして有名であり、40歳にして一切を所…