古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

視覚は世界についての知識を得ることを可能にするために存在する

 多くの動物、特にネズミやモグラの視覚は極めて原始的であり、実際のところ視覚がないに等しいにもかかわらず、環境の中で自分の進む方向をかなりうまく見定め、進化的意味での生存を可能にする一般的活動を行うことができる。
 筆者が思うに、この問いの答えはもっとずっと単純で、より深い意味を持つものなのである。すなわち、「視覚は、この世界についての知識を得ることを可能にするために存在する」のである。無論、視覚という感覚が、唯一の知識獲得手段ではない。他の感覚も同じことをしているが、視覚がたまたま最も効率的な機構だっただけである。視覚は知識を得る能力を無限に広げてくれるとともに、顔の表情とか表面の色のような、視覚を介してしか得ることのできない知識をも提供してくれる。(中略)
 この定義こそが、おそらくは神経科学と美術とを結びつける唯一の定義なのである。


【『脳は美をいかに感じるか ピカソやモネが見た世界』セミール・ゼキ/河内十郎訳(日本経済新聞社、2002年)】


脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界