この問いに答えるためには、進化生物学に眼を向け、次のように問う必要がある。「視覚はなんのためにあるのか?」生物学的観点から得られる答えはきわめて明快だ。視覚が進化したのは、それが動物の適応度をとにかく高める――生存し繁殖する能力を高める――からである。自然淘汰(すなわち、集団内でそれぞれの個体がどの程度生き延びられるか)は、究極的には、動物が視覚を用いてなにをするかにかかっており、なにを体験するかにはよらない。したがって視覚は、進化という遠い時間の彼方で、生物の行動を誘導する方法として出現したのに違いない。
【『もうひとつの視覚 〈見えない視覚〉はどのように発見されたか』メルヴィン・グッデイル、デイヴィッド・ミルナー/鈴木光太郎、工藤信雄訳(新曜社、2008年)】