その後、「神経をつなぎ変えた」カエルを人工的な獲物を用いてテストしたところ、カエルは向きを変え、獲物を捕獲するためにすばやく舌を伸ばしたが、その方向は獲物が提示された側とは逆方向であった。この「左右逆の」行動が生じたのは、カエルの獲物捕獲システムが誤って配線し直されたことによる。
しかしこれは、カエルの視覚世界全体が左右反転しているということではない。イングルがこの同じカエルを用いて、行く手を阻んでいる障壁を避けてジャンプする能力をテストすると、その運動はまったく正常だった。獲物の捕獲でエラーをおかした同じ場所に障壁が置かれても、ジャンプは正常だった。あたかも、カエルが障壁を回避するときには外界を正確に見ているが、獲物を捕獲するときには外界を左右逆に見ているかのようである。実際イングルは、視神経が依然として障害物回避モジュールと正常に連絡していることを発見した。
【『もうひとつの視覚 〈見えない視覚〉はどのように発見されたか』メルヴィン・グッデイル、デイヴィッド・ミルナー/鈴木光太郎、工藤信雄訳(新曜社、2008年)】