- 『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
抜群の移動能力が世界へのハードルを引き下げていたことは確かだが、それもメイならではなお世界に対する態度があってこそのものだった。メイが行きたいと思う場所──というより、ありとあらゆる場所にメイは行きたかったのだが──に行こうとすれば、迷子になることを覚悟しなくてはならない。目の不自由な人にとっては、えてして考えるだけでぞっとする悪夢だ。しかしメイにしてみれば、迷子になることこそ、いちばん楽しい経験だった。「おれはとびきり好奇心が強いんだ。道に迷うのはちっともいやじゃない。ものごとを発見するのに欠かせないプロセスだ」と常々言っていた。どうやってそんなに上手に杖で移動できるのかと尋ねると、肝心なのは杖ではなく好奇心なのだと答えたものだ。