ラマチャンドランは、存在しない手足が激しく痛む幻肢痛の治療に成功している。
正常なおとなが鏡像と本物の物体を混同することはめったにない。高スピードで近づいてくる車がバックミラーに見えたとき、ブレーキを強く踏む人はいない。車の像は前から急接近してくるように見えるのに、アクセルを踏んで加速する。同じように、もし洗面所でひげを剃っているときに泥棒が背後のドアを開けたら、ぐるっと振り返って立ち向かうだろう――鏡のなかの泥棒に襲いかかることはない。脳のどこかが「像は前にあるが、本物は後ろだ」という修正をしているにちがいない。
【『脳のなかの幽霊』V・S・ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー/山下篤子訳(角川書店、1999年)】