古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

書籍情報

『本当の戦争の話をしよう』ティム・オブライエン/村上春樹訳(文春文庫、1998年)

「彼らはいつ死ぬかもしれぬ男たちが背負うべき感情的な重荷を抱えて歩いていた。悲しみ、恐怖、愛、憧れ、それらは漠として実体のないものだった。しかしそういう触知しがたいものはそれ事態の質量と比重を有していた。それらは触知できる重荷を持っていた…

『チベットの生と死の書』ソギャル・リンポチェ/大迫正弘、三浦順子訳(講談社+α文庫、2010年)

チベット仏教の師ソギャル・リンポチェが、チベット古来の智慧と、現代の宇宙の本質に関する研究成果を元に「生」とは何か、「死」とは何かを、宗教、国籍を問わず、すべての人が受け入れられるよう解説していく。死にゆく近親者を助けるために、自身の死の…

『ホーキング、宇宙と人間を語る』スティーヴン・ホーキング、レナード・ムロディナウ/佐藤勝彦訳(エクスナレッジ、2010年)

キリスト教徒の労働観 ローマ法王が英国を訪問する直前の9月初旬、世界的宇宙物理学者ホーキング博士の新著の内容が英国の新聞に大きく取り上げられた。いわく、宇宙の創造に神は必要でなかった。旧約聖書の創世記において神は6日間で宇宙と人間を創造したこ…

『絶対製造工場』カレル・チャペック/飯島周訳(平凡社ライブラリー、2010年)

一人の男がひょんなことから、わずかな燃料で膨大なエネルギーを放出する画期的な器械「カルブラートル」を発明した。だがこの器械はエネルギーだけでなく、あらゆる物質に封印された「絶対=神」をも解放してしまう恐ろしい器械だった。やがて目に見えない…

『パリジェンヌのラサ旅行』A・ダヴィッド=ネール/中谷真理訳(東洋文庫、1999年)

「神秘の国」の文化に心ひかれ、美しいチベット高原に魅了されたパリジェンヌが貧しい托鉢の巡礼者に扮し、たった二人で鎖国下のチベットに潜入した。心躍る冒険物語。全2巻完結。

『「私たちの世界」がキリスト教になったとき コンスタンティヌスという男』ポール・ヴェーヌ/西永良成、渡名喜庸哲訳(岩波書店、2010年)

ヨーロッパ世界の根は、キリスト教にはない。ローマ史の碩学が、コンスタンティヌスによる国教化という「起源」の物語を書き直す。一人の男の信仰と資質が、キリスト教という比類ない文化装置を起動した。歴史を輪切りにし、人間が生き死にするリアルな偶然…

『数の神話 永遠の円環を巡る英雄の旅』梅本龍夫(コスモス・ライブラリー、2009年)

「数」の扉を開くと、人類の太古の記憶が、「現代の神話」となって復活する 神話は、「物語」「儀式」「シンボル」の3要素から成る。「物語」とは、共同体、国家、地球、さらには、宇宙全体の成り立ちと意味合いを説明する「元型的な物語」であり、一人ひと…

『部分と全体 私の生涯の偉大な出会いと対話』W・ハイゼンベルク/山崎和夫訳(みすず書房、1999年)

本書は量子力学建設期の巨人、W・ハイゼンベルクによる『Der Teil und das Ganze』(1969)の邦訳である。訳はハイゼンベルクのもとで彼と共同研究を行っていた山崎和夫により、序文を湯川秀樹が寄せている。この豪華な顔ぶれが並ぶ本のページをめくってみる…

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』マルコム・グラッドウェル/沢田博、阿部尚美訳(光文社、2006年)

副題は「『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」。あれやこれやと悩んだ末に下した判断が間違えていた、という経験は誰にでもあるだろう。米国のジャーナリストであり、ヒット商品や購買者心理の研究などで知られる著者は、長時間考えてたどり着いた結論よ…

『バカでも年収1000万円』伊藤喜之(ダイヤモンド社、2010年)

どんな状態からでも1000万円稼げる6大奥義。99%の人々が見落としていた成功法則。「成功の糸」「超速行動」「弱点レーダー」「人に貯金」「夢は持つな」「逆さまの法則」。「こんなに簡単だったんだ」。

中村元−岩波文庫

来年はクリシュナムルティを再読しつつ、初期仏教との比較を試みる。手始めに岩波文庫から出ている中村元に取り掛かる予定。余裕があれば浄土三部経にも手をつける。

『仏教の身体技法 止観と心理療法、仏教医学』影山教俊(国書刊行会、2007年)

仏教の教えに身体性をもたせ、真に仏教を理解するために、日本人が失ってしまった伝統的な感性の文化を取り戻す。仏教の瞑想「止観」に科学的なアプローチ。

『大乗とは何か』三枝充悳(法蔵館、2001年)

釈尊の「苦」から生まれた仏教は、どのようにして世界宗教である「大乗仏教」へと変貌したのか。一人のさとりに始まり、一切衆生の救済に向かった大乗の歴史を、今なお広い信仰を集める多様なほとけや、般若経を中心とした経典群をもとにあざやかに読み解く…

『黒檀(池澤夏樹個人編集 世界文学全集 第3集)』リシャルト・カプシチンスキ/工藤幸雄、阿部優子、武井摩利訳(河出書房新社、2010年)

ポーランドの新聞・雑誌・通信社の特派員として世界各地を駆けめぐり、数々の傑作ルポルタージュを上梓した著者による、小説よりも奇なるアフリカ取材の集大成。数十万人が山刀で切り刻まれた大虐殺の要因を解説する「ルワンダ講義」や、現代アフリカ史上最…

『増補新版 子供より古書が大事と思いたい』鹿島茂(青土社、2008年)

買うも地獄、買わぬも地獄。達意の文章で綴る、洋古書の魅力とコレクション地獄の恐怖。「パリ古書あんない」を増補、古書の匂いさらに色濃く、待望の新版! 講談社エッセイ賞受賞。 『子供より古書が大事と思いたい』鹿島茂

『テロリズムを理解する 社会心理学からのアプローチ』ファザーリ・M・モハダム、アンソニー・J・マーセラ編/釘原直樹監訳(ナカニシヤ出版、2008年)

なぜテロが起こるのか? なぜテロ行為に至るのか? テロリズムとは何か? 全米最大規模の心理学会であるアメリカ心理学会(APA)が9.11後、その「知」を結集し、国際テロリズムの心理・社会的起源とその影響の解明を試みた大著。テロの定義から、分類、歴史、…

『現代科学論の名著』村上陽一郎編(中公新書、1989年)

現代科学論の名著 「科学とは何か」をラディカルに問う名著12冊のブックガイド。ホワイトヘッド『科学と近代世界』、バシュラール『否定の哲学』、シュレーディンガー『生命とは何か』、マンハイム『イデオロギーとユートピア』、ウィトゲンシュタイン『論理…

『ロードサイド・クロス』ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子訳(文藝春秋、2010年)

尋問の天才キャサリン・ダンス、ネットにひそむ悪意に挑む。陰湿なネットいじめに加担した少女たちが次々に命を狙われた。いじめの被害者だった少年は姿を消した。“人間嘘発見器”キャサリン・ダンスが少年の行方を追う一方、犯行はエスカレート、ついに死者…

『コズモグラフィー シナジェティクス原理』バックミンスター・フラー/梶川泰司訳(白揚社、2007年)

「複数の原理を相互に調整し秩序づける行為を私はデザインと呼ぶ」──現代のレオナルド・ダ・ヴィンチともいわれるバックミンスター・フラー。彼の遺作である本書は、「シナジェティクス」、「テンセグリティ」という自身の思想の核心を一般読者にむけて綴っ…

『宗教で読む戦国時代』 神田千里(講談社選書メチエ、2010年)

宣教師も驚いた戦国日本人の高度な精神性。その「ゆるやかな宗教性」のバックボーンとしての「天道」思想をキーワードに、一向一揆、キリシタン論争から島原の乱まで、日本人の心性に新たな光を投げかける。

『物質のすべては光 現代物理学が明かす、力と質量の起源』フランク・ウィルチェック/吉田三知世訳(早川書房、2009年)

磁力や重力を思い出せばわかるとおり、物体のあいだに働く力はふつう、互いに離れるほど弱くなる。離れるほど引きあう力が強くなる、そんな作用を考えるなんて馬鹿げていると皆は言ったが、その「漸近的自由性」を実際に見つけた本書の著者は素粒子物理学を…

『暗黙知の次元』マイケル・ポランニー/高橋勇夫訳(ちくま学芸文庫、2003年)

人間には、言語の背後にあって言語化されない知がある。「暗黙知」、それは人間の日常的な知覚・学習・行動を可能にするだけではない。暗黙知は生を更新し、知を更新する。それは創造性に溢れる科学的探求の源泉となり、新しい真実と倫理を探求するための原…

『エスの系譜 沈黙の西洋思想史』互盛央(講談社、2010年)

「考える」「思う」の主語は何か。「思われること」は、本当に「私に思われ」ているのか。「私」を「捏造」したデカルトは、すでにこの問いを封印していた。しかし、近代以降、この沈黙の事象に対する哲学者たちの悪戦苦闘が始まった。リヒテンベルクに始ま…

『市場リスク 暴落は必然か』リチャード・ブックステーバー/遠藤真美訳(日経BP社、2008年)

サブプライム危機が表面化する直前に出版され、「サブプライム危機を予言した書」としてウォール街で大きな反響を呼んだリスク管理のプロの手による警告の書。 MITの経済学者から一転、時代の流れに乗ってウォール街に転じてデリバティブの開発に携わること…

『生物進化を考える』木村資生(岩波新書、1988年)

ダーウィンによって確立された進化論はどのように発展していったのか。分子生物学は進化論をいかに豊かにしたのか。進化の道筋は現在どのように考えられているのか。革命的な「分子進化の中立説」を提唱して世界の学界に大論争を巻き起した著者が、『種の起…

『自己組織化と進化の論理 宇宙を貫く複雑系の法則』 スチュアート・カウフマン/米沢富美子訳(ちくま学芸文庫、2008年)

キリンの首はなぜ長いのか――「突然変異」と「自然淘汰」により進化したからだ、というダーウィンの進化論はあまりにも有名だ。しかし、自然淘汰だけで生物界の詳細な構造は説明できないことを著者は指摘する。そして、生物における秩序の多くは自然淘汰の結…

脱構築を学ぶ

すべてが痕跡であり「読み」によって現象するのなら、そのつどの「読み」の正しさは、どこに求められるのか──。ジャック・デリダの世界認識の深奥に迫る野心的試み。デリダ小伝や彼の著作案内も収録。 理論構築が排除した他者に応える「根源的」な肯定。 現…

『世紀の空売り』マイケル・ルイス/東江一紀訳(文藝春秋、2010年)

世界中が、アメリカ発の住宅好況に酔っていた2000年代半ばそのまやかしを見抜き、世界経済のシステム自体が破綻するほうに賭けた一握りのアウトサイダーたちがいた。難攻不落の鉄壁のまやかしを演出するのは、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズ…

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ/土屋政雄訳(ハヤカワepi文庫、2008年)

残酷な運命に翻弄される若者たちの一生を感動的に描き、世界中で絶賛された、ブッカー賞作家の新たなる傑作。解説:柴田元幸 優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提…

『原始仏典』中村元監修、森祖道、橋本哲夫、浪花宣明、渡辺研二、岡野潔、入山淳子、岡田行弘、岡田真美子、 及川真介、羽矢辰夫、平木光二、松田慎也、長尾佳代子、勝本華蓮、出本充代訳(春秋社、2003年)

様々な比喩を用い、民衆を仏の道に導こうとしたブッダの心が、今、よみがえる。最新の研究成果に基づき、流麗なわかりやすい訳文でおくる原始仏典現代語訳の決定版。 第一巻:『聖なる網の教え(梵網経)』『修行の成果(沙門果経)』『真のバラモン(種徳経…