『本当の戦争の話をしよう』ティム・オブライエン/村上春樹訳(文春文庫、1998年)



本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

「彼らはいつ死ぬかもしれぬ男たちが背負うべき感情的な重荷を抱えて歩いていた。悲しみ、恐怖、愛、憧れ、それらは漠として実体のないものだった。しかしそういう触知しがたいものはそれ事態の質量と比重を有していた。それらは触知できる重荷を持っていた。彼らは恥に満ちた記憶を抱えて歩いていた。彼らは辛うじて制御された臆病さの秘密を共有していた。(中略)人々は殺し、そして殺された。そうしないことにはきまりが悪かったからだ」。(村上春樹訳)


 1999年、ピューリッツァー賞、米国書評家協会賞という二つの賞の最終審査に残った『本当の戦争の話をしよう』は、ティム・オブライエンが同じくベトナム戦争について書いた以前の作品── 回想録『僕が戦場で死んだら』や小説『カチアートを追跡して』―― とは微妙だが決定的な違いがある。これは回想録でも長編小説でも短編小説集でもなく、これら三つの形式を巧みに組み合せた、幻覚を誘発する効果さえありそうな不思議な作品である。