『ホーキング、宇宙と人間を語る』スティーヴン・ホーキング、レナード・ムロディナウ/佐藤勝彦訳(エクスナレッジ、2010年)



ホーキング、宇宙と人間を語る

キリスト教徒の労働観


 ローマ法王が英国を訪問する直前の9月初旬、世界的宇宙物理学者ホーキング博士の新著の内容が英国の新聞に大きく取り上げられた。いわく、宇宙の創造に神は必要でなかった。旧約聖書の創世記において神は6日間で宇宙と人間を創造したことになっているが、ホーキング博士の新著は、これを否定した。


 5世紀ぶりのローマ法王の英国公式訪問直前に報道された「無神論」に対して、宗教界、学界からさまざまな意見が寄せられた。プロテスタント保守派の多い米国では、神が人間を造ったとするキリスト教の教義に反する進化論を公立学校で教えることが合憲か否かで20世紀後半まで争われ、結局合憲という判決が出たが、さすがに今回の英国での論争では一方的に保守的な意見は見られなかった。


 キリスト教でも、特にプロテスタントの教えには職業は神が与えたものであるという「天職」の概念がある。マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」には、この天職の概念が近代資本主義の形成に大いに貢献したことが書かれている。だが、プロテスタントの多い米国で2008年のリーマン・ショックが起きたことは、現代キリスト教徒の職業倫理の低下を象徴している。


 欧州でも、カトリック社会主義が組み合わさった国では労働者の勤労意欲の低下が顕著であり、経済の非効率が目立つ。若者はアジア文化に興味を示し、西洋文明離れの兆候も感じられる。近代工業化社会の基になる物理学や化学を生み出した欧州の底力はまだまだ侮れないが、新興国との成長格差が目立つ最近の状況を見ると、プロテスタントの指導者よ頑張れ、と言いたくなる。(皓)


(※「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです)


asahi.com 2010-12-15