・成長を助ける意志
20代半ばで読んだ。林竹二は勝負師であった。「何が何でも子供を幸せにしてみせるぞ」という一点で勝負していた。だからこそ、授業に全精力を傾けた。
宮城教育大学の総長という立場を経た後、林竹二は全国の小学校や、定時制高校を行脚する。そして、あらん限りの力で授業に取り組む。兵庫県の湊川高校は、読み書きすらできない学生が多かった。過酷な貧困が学ぶ機会を彼等から奪っていたのだ。
本書では、授業内容と共に、学生の変化が写真に収められている。
教育においては、教えるということの根底に「育てる」ということがなければならない。成長を助けるという意志が──さらに生命にたいする畏敬の念がないところには、教育はないのだが、いのちのあるものにたいする敬虔が、いまの一般の学校教育のどこにあるというのだろうか。
この人の言葉には嘘がない。自分の授業内容を貪欲に吸収する生徒にたじろぎ、自分の「持っている力」が少ないことを嘆いているのだ。
林竹二の授業に知識は通用しない。「人間の本質」を考えることを強いられるからだ。このため、勉強できない生徒の方が生き生きとして答える。最初は後ろ向きだった女子高生が、横向きとなり遂には前を向く写真が掲載されている。これこそ、「授業の力」であり「教育の力」であろう。
生徒達からの感謝の手紙が、また泣かせる。
教育にとどまらず、「本気で人間と向き合う姿勢」を林竹二は教えてくれる。