古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

モンスターペアレントの実態/『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』福田ますみ

 ・モンスターペアレントの実態
 ・『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』その後
 ・真相は藪の中

『実子誘拐ビジネスの闇』池田良子
・『ポリコレの正体 「多様性尊重」「言葉狩り」の先にあるものは』福田ますみ


 今時は教員になんかなるもんじゃないね。一読すると、本気でそう思うようになる。所謂、モンスターペアレントの実態を描いたルポ。ただし、その辺のバカ親と違うのは、この事件がマスコミを始めとするメディアで取り上げられ、原告弁護団に550人もの弁護士が名を連ねたことだった。


 児童の両親は明らかに反社会性人格障害である。何から何まで嘘ずくめだ。その一つ一つが明らかになってゆく。著者は、必要以上に被害教員にべったりと寄り添うわけでもなく、きちんと距離をとって事件を見つめている。


 発端は、校長と教頭が保身を図った妥協案を示したことだった。連日学校に押し掛ける両親に対し、「取り敢えず、いじめの事実を認めた上で速やかに謝罪する」ことを教員に強要した。


 そして、イエロージャーナリズムがこれを嗅ぎつける。「週刊文春」の西岡研介記者。彼もまた、被害者の一方的な話を鵜呑みにし、学校に押し掛けては校長を恫喝し、川上(訴えられた教師)の自宅前で張り込んだ。西岡が書いた記事には、特大の顔写真と実名、更には自宅の写真と小学校の全景写真までもが掲載された。そして、ワイドショーが後追いする。


 教員は 朝日新聞の西部本社報道センターの市川雄輝という記者の取材を受ける。しかし、翌日の紙面には被害者側の言い分に沿った記事が掲載された。

 毎日新聞の栗田亨記者も、教諭によるひどい体罰やいじめを信じて疑わなかった一人である。

 私は地元記者に話を聞くために、この事件を熱心に追いかけているという西日本新聞の野中貴子に連絡を取った。
「周辺取材をしてみると、どうも、報道されていることとはギャップがあるんですけどね」
 私が疑問を口にすると、にわかに気色ばんで、
「そういう取材をするから、さらに浅川さんを傷つけるんです!」
 そして、
「浅川さんの言うことは絶対正しい。体罰やいじめは100%真実です」
 と断言した。


 まさにメディアスクラムといっていい状況である。更に致命的なことに、被害を受けたとされる児童がPTSDと診断された。

 裕二(被害者とされた児童)の主治医で、被害者精神医学の専門医である久留米大学医学部精神神経科学教室の講師・前田正治は、現在の病状をこう診断し、さらに、自身がかつて診断した例と比較して次のように付け加えた。


《「強姦された女性やアメリカの潜水艦と衝突して沈没した『えひめ丸』に乗っていた高校生たちよりも酷い状態にある。これだけ酷い状態にあるということは、原告裕二が被告川上から受けた暴力等について、まだ本当のことを話していないと思われる。学校に行かせることは、毎日犯行現場に行かせることになり、原告裕二の心身の状況からすると極めて危険である。」》


 その上、原告弁護団は550人もの弁護士が名を連ねた(弁護団長は大谷辰雄弁護士)。


 営業マンに丸め込まれやすい人物や、電話勧誘を速やかに断れない人は、同じ落とし穴に陥る可能性がある。上司に意見できない人も同様だ。


 マスコミで報じられるようになった途端、教員は近隣住民からも白い眼で見られるようになる。また、当初はいつでも裁判で証言すると言っていた父兄が、いざ本番となると尻込みをして協力する者は誰一人いなかった。これが、日本の「ムラ社会」の実態だ。右を見て左を見てから、身の振り方を決める。出過ぎた真似は絶対にしない。横並びを好むクズどもだ。


 新潮ドキュメント賞は好著が多い。