・『聖の青春』大崎善生
・『将棋の子』大崎善生
・『傑作将棋アンソロジー 棋士という人生』大崎善生編
・『泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ』瀬川晶司
・羽生善治の集中力
・『先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学
・『真剣師 小池重明 “新宿の殺し屋"と呼ばれた将棋ギャンブラーの生涯』団鬼六
・『赦す人』大崎善生
明晰な頭脳を窺わせる文章で読みやすい。プロ棋士の仕事が「先の手を読むこと」とすれば、彼等に政治を担ってもらったほうが、この国はよくなりそうな気もする。
で、羽生善治の集中力はこうだ――
私が深く集中するときは、スキンダイビングで海に潜っていく感覚と似ている。
一気に深い集中力には到達できない。海には水圧がある。潜るときにはゆっくりと、水圧に体を慣らしながら潜るように、集中力もだんだんと深めていかなければならない。そのステップを省略すると、深い集中の域に達することはできない。焦ると浅瀬でばたばたするだけで、どうもがいてもそれ以上に深く潜っていけなくなってしまう。逆に、段階をうまく踏むことができたときには、非常に深く集中できる。
これ以上集中すると「もう元に戻れなくなってしまうのでは」と、ゾッとするような恐怖感に襲われることもある。
【『決断力』羽生善治(角川oneテーマ21、2005年)】
凄いよね。虫眼鏡で光を集めるよりも凄い。「集中力」とは全意識を一点に定めることであろう。とすると、余計な情報を「捨てる」ことでもある。本当に集中していれば、周囲の景色や音も消える。その意味で、ダイビングの例えは上手い。
また、「戻れなくなってしまうのでは」という言葉は、時間が無限に長くなってゆくことを意味していると思う。つまり、意識のスピードが光速に近づいているに違いない。ということは、通常だと100m/秒のスピードとされるニューロンが、羽生善治の頭脳では30万km/秒の速度で駆け巡っているのだろう。たとえ、将棋の駒から煙が出たとしても私は驚かないぞ。