古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

アメリカ食肉業界の恐るべき実態/『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

 ・アメリカ食肉業界の恐るべき実態
 ・翻訳と解釈

『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス
『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー
『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『DNA再起動 人生を変える最高の食事法』シャロン・モアレム

必読書リスト その二


 アメリカの食品業界の杜撰さは日本の比ではない。圧倒的なロビー活動で、汚染された肉も流通経路に乗っかってしまう。


 それにしても、大衆消費社会の成れの果ては、ここまで酷いものだろうか。生産者と消費者の距離が離れれば離れるほど、顔が見えなくなり、責任感は失われ、辛うじて包装状態のみが互いの信頼関係を形成する。

 医学研究者たちが、近代的な食品加工工程と、危険な感染症の拡大との関連性について、非常に重要な知識を得ている一方で、大手アグリビジネス企業は、食品安全手順へのさらなる規制に断固として反対している。何年にもわたって、精肉大手各社は、ほとんどの消費財メーカーに機械的に課せられている義務を、なんとか回避しようとしてきた。現在アメリカ政府は、欠陥の見つかったソフトボール・バットや、スニーカー、ぬいぐるみ、気泡ゴム(フォームラバー)製の牛のおもちゃについて、全国的な回収を命じることができる。ところが精肉会社に対しては、生命を脅かす危険のある汚染挽肉を、ファストフードの調理場やスーパーマーケットの商品棚から撤去するように命じることができないのだ。これら大手精肉会社の例外的な影響力は、議会における共和党議員との密接なつながりと、彼らへの巨額の献金によって、維持されている。このような事態がまかり通っているのは、毎年どれほど多くの国民が食中毒に苦しみ、これらの感染症がどれほど広がっているのかが、ほとんど理解されていないからだ。
 新しく確認された食品由来病原体は、一見健康そうな家畜によって運ばれ、撒き散らされる傾向にある。これらの微生物に汚染された食物は、食肉処理あるいはその後のプロセスにおいて、感染した家畜の胃の中身や糞に接触した可能性が高い。1996年に農務省が公表した全国調査によると、加工工場で採取された挽肉サンプルのうち、7.5パーセントがサルモネラ菌に、11.7パーセントがリステリア・モノサイトゲネスに、30パーセントが黄色ブドウ球菌に、53.3パーセントがウェルシュ菌に汚染されていた。これらの病原体はすべて病気を引き起こす可能性があり、特にリステリアによる食中毒患者は、通常、入院治療を必要とし、しかも5人にひとりが死亡している。同じ農務省の調査では、挽肉の78.6パーセントが、おもに糞便によって撒き散らされる細菌を含んでいた。


【『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー:楡井浩一〈にれい・こういち〉訳(草思社、2001年草思社文庫、2013年)】


 骨太のノンフィクションである。個人的にアメリカは最も嫌いな国の筆頭格だが、ジャーナリズムはこれほど健全性を示している。まさしく旗を振っているような雄々しさがある。声高な主張ではなく、淡々と事実を突きつけ、消費者自身に判断を委ねているのだ。


 欧米の信じ難い無責任は、基本的に人種差別思想が根っこにあるためだと思われる。そもそもキリスト教自体に「ノアの箱舟」という選民思想がそびえている。狂牛病が発覚した際だって、イギリスは国内での売買を禁じ、近隣諸国へ輸出し続けた。毒だとわかっていながら、平然とこうした真似ができるのだから恐ろしい。


 グローバリゼーションとは、かような鉄面皮と渡り合う世界であることを、我々日本人は知る必要がある。