古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ユングは偶然の一致を「時間の創造行為」と呼んだ/『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング

 ・ユングは偶然の一致を「時間の創造行為」と呼んだ
 ・宇宙人に誘拐されたアメリカ人は400万人もいる
 ・株式有料情報の手口
 ・偶然の一致は壮大な宇宙の調和の現われ
 ・原子のの99.99パーセントは空間

『偶然とは何か 北欧神話で読む現代数学理論全6章』イーヴァル・エクランド
『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』レナード・ムロディナウ
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ
『ゆだねるということ あなたの人生に奇跡を起こす法』ディーパック・チョプラ


 科学的・数学的見解を前半で示し、劇的な偶然が織り成すドラマを後半にずらりと並べている。つまり、「恐るべき事実の数々が“単なる偶然”で説明できるのか?」という挑発的な姿勢を貫いている。


 偶然の一致とは何か――

 ユングは偶然の一致を「時間の創造行為」と呼んだ。これらのエピソードの持つ力そのものと、登場する人物たちが感情を放出し、気持ちを変化させていくようすを見ていると、この言葉はまさに言い得て妙というところだ。


【『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング/有沢善樹、他訳(アスペクト、2004年)以下同】


 ユングらしい上手い言い草だ。では、どのような創造がなされたか? 一つだけ紹介しよう。

 1841年にカナダのプリンスエドワード島東岸の町で生れたチャールズ・フランシス・コフランは、当代きってのシェークスピア劇の名優だった。
 1899年11月27日、コフランはアメリカ南西部にあるテキサス州の港町ガルベストンでの公演中に、突然の病に倒れてまもなく亡くなった。遺体は、遠く離れた故郷に送るのは無理だったので、鉛で縁取った棺に入れられ、町の共同墓地にある石造りの地下納骨所に埋葬された。
 およそ1年後の1900年9月8日、大きなハリケーンがガルベストンを襲った。大波が墓地に激しくたたきつけ、納骨所はめちゃめちゃに壊れた。コフランの棺は波にさらわれてしまった。
 棺はメキシコ湾に流され、そこからフロリダ沿岸を漂流して大西洋に達し、メキシコ湾流に乗って北に運ばれた。
 1908年10月、プリンスエドワード島の漁師たちが、風雨に打たれてひどく傷んだ長い箱が浅瀬に浮かんでいるのを見つけた。9年の歳月を経て、チャールズ・コフランの遺体は5600キロも離れた町から故郷に帰ってきたのである。棺は島の人びとの手で、彼が洗礼を受けた教会の墓地にあらためて埋葬された。


 まるで漫画の世界。いや、漫画だってここまで都合のいい展開はないだろう。人間の想像力を軽々と凌駕するほどの衝撃的なドラマである。


 人間心理が偶然の一致にこれほど魅了されるのは、「つながり」を求める心理的回路があるためだろう。仏教の「縁起」という思想も同様だと思う。で、一旦つながりを見出すと、次に物語が作られる。で、物語はおのずと起承転結の力学に従うというわけだ。人々はいつだって「完結するドラマ」を求めているのだ。


 そして、起承転結の「転」には不思議という名のスパイスが不可欠となる。これこそ「偶然の一致」であり「神からの恩寵」であり「ご先祖様の守護」なのだろう。


 結論――人間は理にかなった人生を嫌う(笑)。



必然という物語/『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー
無意味と有意味/『偶然とは何か 北欧神話で読む現代数学理論全6章』イーヴァル・エクランド
偶然か、必然か/『“それ”は在る ある御方と探求者の対話』ヘルメス・J・シャンブ