1冊挫折、2冊読了。
挫折21『一条の光・天井から降る哀しい音』耕治人〈こう・はると〉(講談社学芸文庫、1991年)/小澤勲著『痴呆を生きるということ』で紹介されていた短篇集。冒頭の「詩人に死が訪れるとき」があまりにも退屈すぎる。私小説というのは、どうでもいい日常を取り澄ました顔で書いている印象あり。「天井から降る悲しい音」「どんなご縁で」「そうかもしれない」の認知症三部作で構成して、値段を抑えればもっと売れることだろう。有吉佐和子著『恍惚の人』とは桁違いの迫力に満ちている。著者の実体験を元にして描かれていて、「そうかもしれない」が絶筆となった。
41冊目『46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生』ロバート・カーソン/池村千秋訳(NTT出版、2009年)/傑作評伝。460ページあるが読みやすい。昨夜から朝方まで読み耽り、本日読了。いやはやこれは凄い。私は視覚に関する本を10冊以上は読んできているが、本書がベストと断言できる。マイク・メイは3歳で失明した。だが彼はおとなしい障害者ではなかった。子供の時分から走り回り、自転車に乗り、50メートル以上の無線塔に上り、スキーまでしている。更には、CIAに勤務し、その後何度も起業をするなど、とにかくチャレンジ精神の塊みたいな人物だ。その彼が46歳の時に再び光を取り戻す。人間が全く新しい世界に踏み込んだ時、どのような変化が起こるか。そして、「見る」という行為がどれほど能動的でダイナミックな脳機能であるかが理解できる。読みながら私は悟りを得た思いに駆られた。「錯覚」こそが視覚を解く鍵だったのだ。脳科学の確かな情報もしっかりと書かれていて、評伝としては100点満点。
42冊目『英知の教育』J・クリシュナムルティ/大野純一訳(春秋社、1988年)/クリシュナムルティ25冊目の読了。『子供たちとの対話 考えてごらん』と似た構成。前半は生徒への講話と質疑応答で、後半は教員とのやり取り。時々クリシュナムルティの言葉がわかりにくくなる原因がやっとわかった。それは、言葉で表現できない世界を何とか言葉にしようと努めたためであった。言葉はシンボルである。彼の内なる世界を伝えるには言葉では不十分であった。「苛立ち」と感じる部分は、多分「厳しさ」なのだろう。一切の組織・教団・信徒を否定したクリシュナムルティが、教育に力を傾注した事実はあまりにも重い。