古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

川口有美子


 1冊読了。


 29冊目『逝かない身体 ALS的日常を生きる』川口有美子(医学書院、2009年)/「シリーズ ケアをひらく」の一冊。第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品。ALS(筋萎縮性側索硬化症)はルー・ゲーリック病とも呼ばれる。簡単にいえば筋肉が死んでゆく脳神経疾患である。スティーヴン・ホーキングでALSを知った人も多いことだろう。川口は元教員とのことだが、それにしても文章が上手い。各章のエピグラフも秀逸だ。ALSは過酷な病気で最終的に身体が全く動かなくなる(TLS:Totally Locked-in State/眼球だけが動く状態は閉じ込め症候群という)。人工呼吸器を装着しても最後は心臓の筋肉が死んでしまう。川口は母の介護をしながらヘルパー事業所を立ち上げているので知識も正確だ。ジャーナリストが取材してもこれほどの作品に仕上げることは多分困難であろう。傑作といってよい。しかし、である。私はこの人が好きになれない。ほんのわずかではあるが嫌な匂いを発している。これは彼女と母親の関係に由来していると思う。ま、普通の人なら全く感じないだろうから、安心して読み給え(笑)。