私の知っている中で最も卑しい感情は、弾圧される人々への嫌悪である。そういった感情のせいでわれわれは、弾圧される人々の特徴を理由にして、弾圧を正当化しうるように思うのだ。きわめて高貴で公正である哲学者さえ、こういう感情をまぬがれていない。
【『蝿の苦しみ 断想』エリアス・カネッティ/青木隆嘉訳(法政大学出版局、1993年)】
人々は意識するとしないとにかかわらず国家という体制内で生きている。最も影響を被るのは教育であろう。有無も言わさずに価値観を押し付けられる。権力者にとって都合のいい善悪だ。まず、勤勉であることが奨励される。そう。未来の労働力。
カネッティの言葉は、ハンセン病の人々を想起させる。当初、「伝染する」と思い込んでいたため完全に隔離され、亡き者として扱われた。そうやって、みんなが安心していた。医学的真実の解明など誰一人考えていなかった。この社会で優先される価値は世間体なのだ。
「寄らば大樹の陰」「長い物には巻かれろ」という国民性。「出る杭は打たれる」という消極性。まったく反吐(へど)が出そうになるよ。体制に従順な人々は、弱い者を平然といじめ、踏みつけている。日本人の70%はジャイアンに従うスネ夫タイプだろう。
蝿の苦しみ 断想