艶っぽい話が多数出てくる。それもそのはず前半は題して「西鶴十話」。男女のいかがわしい話しが大半なのだが、なんとも言い難い趣がある。あっさりとした軽妙さといおうか、離れた位置で嗤(わら)っているような醒めた視線がある。“粋”という美学が文章にゆき届いていて楽しい読み物だ。
とは言うものの現実はどうだろう。
講釈師だって言っている。
色恋と 飢えと寒さを 比ぶればはずかしながら ひもじさが先
なのである。はずかしながらと言うだけ、まだしも昔の人は殊勝だが、何と言っても、食いたい欲望が第一で、ほれたはれたの騒ぎなどは、つまり腹がはってからのちのことなのである。
と書いた上で、返す刀はこう。
だが、さすがに西鶴は、あくなき色欲を追求した。色欲そのもの、性欲それ自体を描き出したのだから、やはりその点は脱帽しないわけにはいかない。しかも『好色一代女』で追求したのは女性のそれを追及したのであるから、西鶴自身もあくなき求道者だったといっていい。
「酒の話」も、おつなものである。