またしても漫画である。休日には、やはり漫画が似合う。これは先日、注文して、やっと今日届いた作品。
孤立せよ…
――これが1ページ目にアップで書かれている。少しバランスの悪い明朝体が、木に彫られた文字のように見える。真っ黒な背景の中から浮き上がるような白い文字。続けて次のページからは、警察に追われる少年のコマが続く。
人は…世界が…バラバラに…バラバラになれと…まかれた種だ…! だから…孤立せよ…!
帯に「鬼才が描く新境地」とあるから名の通った作家なのだろう。絵が独特なタッチなので好き嫌いがわかれるところだ。内容はというと丸山健二の向こうをはる凄さ。これはもう文学作品といっていいのではないか。
不遇な生い立ちの中学生・涯(がい)が人殺しの罪を着せられる。罠を仕掛けたのは、ある富豪のファミリーだった。涯は連行された後で「人間学園」という名の保護施設に送られる。ここは富豪の息がかかった施設で、孤島に設けられた“人間改造施設”だった。繰り返される暴力、有無をも言わさぬ洗脳教育。涯は自らの冤罪を晴らすために戦いを開始する。
彼が過去を回想する場面で、こういうくだりがある。
「先に…
先……
先に行きたかった…!」
「放たれたい!
もう切り上げたいっ……!
この『仮』からっ……!」
彼は親に喰わせてもらいながら、のうのうと生きている連中と過すことに辟易(へきえき)していた。一学期の終了間際に、施設へ戻らず家出を決行する。人が住んでないと思われたアパートの一室に寝泊りしていたところ、不思議な縁によって、ある男に養われることとなる。男が彼に命じたのは、競売物件に居座続けることであった。この頃の生活を涯が振り返って語る。
「押し寄せて来たっ……!
孤独……
貧窮……
不便
不都合
不合理……
そんな
ありとあらゆる
煩わしさと
心細さが
次々に
押し寄せてきた……!
しかし……
同時に
今までずーっと……
オレの体にまとわりつくようにあった空気……
空気が動き出したっ……!
この体を通り過ぎていく清新な気配……
感覚……
そうだっ……!
こんな風を感じたかった……!
オレは……
オレに依って立っているっ……!
これが自由だ……」
身の丈に合った自由を死守するために少年は戦う。彼は虐待による洗脳教育にも決して屈することがない。孤立を愛する涯だったが、脱走するための協力をよしとする。最後の最後で絶体絶命の窮地に陥った時、魂の自由を命懸けで選んだ者が勝利する。松本大洋以来の傑作だ。