光州事件を題材にした版画集である。映画のパンフレットほどの体裁。
これほど太い線で、どうしてここまで繊細な表情を描き出せるのかが不思議だ。縄に繋(つな)がれ一列で進む人々。一様に打ちひしがれ、うなだれ、膝を屈し、狭い歩幅で歩かされている。5人は同じ背格好であるが、表情が微妙に異なる。個々人の意志によって決起したことを示しているようだ。志半ばにして斃(たお)れた同志達が真っ直ぐに身体を伸ばし、横たわっている。生き残った者よりも遥かに自由を謳歌しているように見える。
狂気を剥き出しにした兵士の顔。眼はギラギラと光り、焦点が定まらず、鼻腔を大きく膨らませ、牙を丸出しにしている。周囲に施された鉄条網は彼らの神経そのものだ。
息子の亡き骸を抱いたまま大粒の涙を流す母親。その後ろでは両手を広げて軍隊を制止しようとする母親。
宗教画さながらに胸を打つ何かがある。ノミの一彫り一彫りに込められた祈りが、真実の姿をありのままに描き出したのだろう。
amazonには見当たらないため、別の著作リンクを貼り付けておく。