古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

飯嶋和一、泉谷閑示


 1冊挫折、1冊読了。


 挫折1『「普通がいい」という病』泉谷閑示〈いずみや・かんじ〉(講談社現代新書、2006年)/著者はきっと頭のいい人なんだろう。それが裏目に出てしまっている。わかりやすい文章、有用かつ適切な引用文献の数々、そして明るい表情の近影……。その全てがあざとく感じられた。「病気や苦しみとは、天からのギフトのようなもので、その中にとても大切なメッセージが入っている。だが、それは〈不幸印(じるし)〉のラッピングペーパーに包まれているので、たいては嫌がって受け取られない。しかし、それは受け取らない限り何度でも再配達されてきてしまう。思い切って受け取ってその忌々(いまいま)しい包みをほどいてみると、そこには、自分が自分らしく生きていくための大切なメッセージが見つかる」(35-36ページ)――胸の悪くなるような文章だ。悪人だとは思わないが、私と趣味や嗜好が異なる人物に違いない。しかも、そこに計算が見て取れる。ブルブルッと震えて本を閉じた。


 1冊目『雷電本紀飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉(河出書房新社、1994年/河出文庫、1996年/小学館文庫、2005年)/今月の課題図書。長篇ではあるが、短篇の連続技として読むべきだろう。巻半ばで私は数ページごとに涙を落とした。一度読んでいるにもかかわらずだ。相撲人(すもうにん)・雷電為右衛門(らいでん・ためえもん)は紛(まが)うことなき神であった。文句なしの傑作。本書を読まずして読書通を騙(かた)ることなかれ。