・男は再び走り出した
・飯島和一作品の外情報
・イエロージャーナリズム
・『雷電本紀』飯嶋和一
・『神無き月十番目の夜』飯嶋和一
・『始祖鳥記』飯嶋和一
・『出星前夜』飯嶋和一
・『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』飯嶋和一
これがトール・ノーレットランダーシュの言う「外情報」だ。極端な省略、割愛によって読者の想像力が拡がる。行間の豊かさ。
「お名前ぐらい、教えていただけませんか」
『前にも言ったろう。俺はただの修理工』
バッグを手渡しながら彼は笑ってそう言った。車が動き出す時、彼は窓越しにおれを見つめた。
『新田って言ったな』
「はい」
彼は小さくひとつ頷くと車を出し、そしてそのまま視界から消えていった。
【『汝ふたたび故郷へ帰れず』飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉(河出書房新社、1989年/リバイバル版 小学館、2000年/小学館文庫、2003年)以下同】
頭を下げドアを開けて出ようとした時だった。
『新田』いきなり彼が背後から呼んだ。
「はい。なにか……」
『……よく来た』
まだおれに伝えることがあったようだったが、急に言うのをやめたらしかった。
(※左が単行本、右が文庫本)