古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

サティシュ・クマール


 1冊読了。


 127冊目『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール/尾関修、尾関沢人〈おぜき・さわと〉訳(講談社学術文庫、2005年)/サティシュ・クマールは少年時代にジャイナ教の僧侶となり、18歳でガンジー思想に目覚めた。世界各地を巡礼し識者との対談を重ねている。バートランド・ラッセルマーチン・ルーサー・キングシューマッハーなど。注目すべきは前半に次々と登場する母親の言葉と、クリシュナムルティー(本書表記のママ)との出会いだ。本書は思想的なまとまりを欠いているが、これだけでも読む価値がある。また、ジャイナ教裸形派のストイックなまでの非暴力も実に新鮮だ。仏教、ヒンズー教ジャイナ教などを融合した土俗的な思想という印象を受けた。日本の八百万(やおよろず)の神的曖昧さが目立ち、何でもありの寄せ鍋状態。このため確かに平和を志向してはいるのだが、思想的なキレが欠如している。元々インドでは独りで覚った人をブッダ(目覚めた人)と呼称していたが、その後阿羅漢と呼ばれるようになる。サティシュ・クマールは声聞だ。真面目で謙虚だが面白くない。読み書きのできない実母があれほどの智慧の言葉を語りながらも、著者が僧侶の道から外れた時の混乱ぶりには考えさせられた。