古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

横田勇人、門野晴子


 2冊挫折。


 挫折23『パレスチナ紛争史』横田勇人(集英社新書、2004年)/18ページで挫ける。「パレスチナ紛動を巡る報道では、こうした問題は少なくない。内外のメディア、特に日本のマスコミは、パレスチナ自治区に入って民衆の声を現地取材したいわゆる『ルポ』を好んで載せる傾向がある。こうした記事の性格上、パレスチナ側の声だけを取り上げるため、意図しなくともパレスチナ側の言い分に沿った記事になりがちである。(中略)出来る限り偏らぬよう心がけた」(「はじめに」)――この一文が引っ掛かった。新聞記者特有の傲慢な匂いがプンプンしている。まず、「日本のマスコミ」が何を指しているのか示されていない。著者自身がマスコミの人間であるにもかかわらずだ。「『ルポ』を好んで載せる傾向」についても同様で、具体的なデータが挙げられていない。しかも現実には、イスラエル発、アメリカ経由のニュースソースが圧倒的に多いのだ。意図的に隠しているとしか思えない。本書を読了したわけではないので断定は避けたいが、新聞記者による「ルポ否定」とすら勘繰りたくなる。「紛争史」と銘打っておきながら、「偏らぬ」もへったくれもない。事実や歴史を知れば知るほど「偏る」のが当然なのだ。そんなことは、フリーのジャーナリストが書こうが、新聞記者が書こうが、自分の知り得た情報の範囲で判断するに決まっている。それをこの記者は、まるで教科書でも書くような調子で綺麗事を述べている。また、広河隆一著『パレスチナ 新版』(岩波新書、2002年)が本書の2年前に発行されており、広河批判と取れなくもない。個人的には、広河本の方が100倍以上面白かったし、強烈であった。


 挫折24寝たきり婆あ猛語録』門野晴子(講談社、1996年)/実母の「猛語」を集めた作品だが破壊的な面白さがある。著者の冷徹な観察、静かな自戒も大変味わい深い。それでも40ページで挫けた。挫けたというよりは「やめた」というのが適切だ。ある雑誌に門野晴子のインタビューが掲載されていた。威勢のよさと卓見に私は魅了された。で、本書を読むことにした。にもかかわらず挫けた。このモヤモヤ感を言葉にするのは難しい。門野晴子のあけすけな書きっぷりには、妙な生々しさがある。しかもその大半が現実に支えられたものだ。そこに私は、どうしようもない気持ち悪さを感じてしまう。「面白いオバサンだな」と思いながら話を聞いていたところ、腕を上げた拍子に黒々とした腋毛が見えてしまった――そんな感覚だ。もっと軽いタッチで書けば、べらぼうに売れると思う。実に惜しまれる。