いちばん大切なことは、コミュニケーションがとれるということ

紙屋●午前中の授業では、コミュニケーションということをお話したんですけれども、もう一つ最後に、ビデオの中で東京のお兄さんが病気で、札幌まで来た妹さんがいましたよね。あの妹さんが、そのお兄さんに期待していたことはなんですか。「食べたら、おいしいと言ってほしい、呼んだら返事してほしい」ということでした。
 わたしたち人間のなかでいちばん大切なことは、コミュニケーションがとれるということなんですよ。もしお父さんお母さんとコミュニケーションがとれなくなったら……。今はみなさんはあまりお父さんお母さんとお話しない年齢なのかもしれないけれども、子どもが病気になったときに、お父さんやお母さんが必ず言う言葉があります。それは、「代わってあげたい」という言葉です。「わたしが代われるものなら代わってあげたい」。すごく重い病気でも、自分の命に代えても自分の子どもを守りたい、親はみなさんを守りたいって。
 そういうご両親の考えを聞いたら、その家族の方と同じ気持ちに看護婦がなって、「なんとしても、みなさんをご両親のもとに返してあげたい」と、みなさんが病気になったときは、そう思うのですね。
 もう一つ、必ず言う言葉があるの。「呼んだら、せめて返事してほしい」ということです。「Dちゃん」って、もしお母さんが呼んだら、そのとき、「はい」って応(こた)えてください。もしお母さんが病気のとき、「お母さん」って呼んでも、お母さんが返事をしてくれなかったら悲しいでしょう? だから、「一言でいいから返事をして」って言うのですね。わたしたち看護婦は、「返事ができるようにしてください」って頼(たの)まれるのです。
 家族の中でいちばん大切なもの、それから人間と人間の間でもいちばん大切なことは、そういう関係を築(きず)いていけるコミュニケーションなんだなあと思います。だから、呼ばれたら返事しようね。(中略)
 人間が言葉を失ったときには、だれでもが、「コミュニケーションがいちばん大切だ」ということに気がつくのですね。


【『紙屋克子 看護の心そして技術/別冊 課外授業 ようこそ先輩』NHK「課外授業 ようこそ先輩」制作グループ、KTC中央出版編(KTC中央出版、2001年)】


紙屋克子 看護の心そして技術―課外授業 ようこそ先輩・別冊 (別冊課外授業ようこそ先輩)