古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

メアリー・ルティエンス


 1冊読了。


 139冊目『クリシュナムルティ・目覚めの時代』メアリー・ルティエンス/高橋重敏訳(めるくまーる、1988年)/メアリー・ルティエンスによる伝記三部作の第一作。翻訳は『クリシュナムルティ・実践の時代』(めるくまーる、1987年)が先だった模様。本書はいわば「星の教団編」である。クリシュナムルティが生まれてから、星の教団を解散する1929年までが描かれている。神智学協会のアニー・ベサント夫人が世界教師の器であるクリシュナムルティ少年のために用意したのが星の教団(当初は「東方の星教団」)であった。はっきり書いておくが読み物としても面白くないし、思想的には完全なスピリチュアル系でトンデモ本のレベルだ。ところが巻半ばから、クリシュナムルティのプロセス体験が始まり、妙に昂奮させられるのは確かである。そして白眉は解散を宣言するスピーチだ。その後のクリシュナムルティ思想の原型が示されている。ここだけでも読む価値あり。菩提樹の下で覚知したブッダを彷彿(ほうふつ)とさせる。34歳の青年が一切の神秘主義を斥(しりぞ)けて、組織という形態まで否定したのは世界大恐慌の年(昭和4年)であった。