古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

レイプを研究対象とする愚行/『人はなぜレイプするのか 進化生物学が解き明かす』ランディ・ソーンヒル、クレイグ・パーマー

「進化論は後だしじゃんけんだ」というのが私の持論である。進化論は生き残った種を勝者と位置づけ、残された機能を有利と判断する。しかしよく考えてみよう。淘汰という概念から見ても、果たしてヒトが進化しているかどうかは不明だ。人類が地球の歴史に登場してから高々700万年しか経っていないのである。恐竜のようにならないとは誰も保証できないだろう。要はこうだ。過去を振り返れば現在生きている生物は勝者となるが、未来から見れば滅びつつある種になっているかも知れないのだ。


 本書を知ったのは、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」というブログでのこと。


 一部引用させて頂く――

 つまりこうだ。女は妊娠、出産、授乳に多大な時間とエネルギーを費やさなければならない。だから男選びも慎重になる。レイプは父親を選べず、子育てを困難にするため、女に大きな苦痛をあたえることになる。いっぽう男は養育投資が少ないことから、繁殖のため、多数の相手に関心を向けることになる。そんな男のセクシュアリティの進化が、レイプの究極要因だという。要するに男は色を好み、女は選り好みするんだね。
 ただし、レイプそのものが適応なのかどうかについては、判断を保留している。レイプとは、男の性淘汰の中における、偶然の副産物だという考えと、ずばりレイプは適応であるという仮説の両論を併記している。性淘汰における繁殖に有利な形質として、レイプが選び取られていたなんて、考えるだにゾッとするのだが、それが生き物としての雄の姿なのだろうか。


【「人はなぜレイプするのか」】


 この書評に賛否両論のコメントが殺到した。それに対して再び書かれた記事が以下――

 しかし、そうした勇み足の一つを攻撃して、本書の全てを否定できたヤッホーと能天気に勝利宣言するほど、わたしはおめでたくない。あるいは、竹内久美子のエッセイのような「分かりやすさ」に飛びついてこと足れりとするほど、この分野の研究は進んでいない(はずだ)。だから、「進化・適応からレイプを説明する」可能性は残し、精進に励もう。


【「レイプは適応か」】


 で、リンク先にはこんな記述がある――

 この話題が欧米ではどのような苛烈な政治的な論争を巻き起こす危険があるかを十分に理解した上で、真摯にレイプとはどのような現象であるかを解説している書である。


shorebird 進化心理学中心の書評など


 本書の原題は『A Natural History of Rape』(強姦の自然史)である(※「EP: 科学に佇む心と身体」を参照した)。これをわざわざ『人はなぜレイプするのか?』と改題するとは見上げた根性だ。売るためなら、何でもやってのけるような出版社なのだろう。「青灯社」という名前は、何となく殺虫ライトを思わせる。きっと、害虫みたいな読者を募ろうって魂胆なのだろう。


 では、私の考えを述べよう。まず、レイプを研究対象とすること自体が愚行であると考える。これがレイプ防止とか、レイプ被害者のケアであればまだ理解できる。しかし本書は、「レイプという行為」を研究対象にしているのだ。


 これがおかしいのは、レイプを犯罪に置き換えるとよくわかる。レイプが進化的適応だとすれば、窃盗や詐欺には経済的合理性を、暴力にはリーダーシップを認めねばなるまい。


 大体が適応であるはずがないのだ。なぜならば、レイプという行き掛かりの行為によって自分のDNAを遺せたとしても、経済的な支援がなければ子供は育つことができないからだ。つまり、殆どの人々がレイプをしないのは、「好き」という感情をベースとした持続的な関係性があって、初めて育児が可能になることを本能的に知っているためだろう。


 では、レイプした側に経済力があったとしよう。そうであったとしても、無理矢理子供を孕(はら)ませてしまえば、生まれてきた子供が母親に殺されるリスクが生じる。そう考えると、進化的に有利とは決して言えないはずだ。それ以前に寝首を掻(か)かれる可能性が大だ。


 レイプといえば、以下の記事が忘れられない――


レイプの“被害者”ではなく、“生還者”になった女性
「レイプされそうになったらさせなさい」の覚悟


 もしも私に娘ができたら、こう教えるだろう。「女として生まれた以上、レイプされる可能性は常にあると考えよ。だが、いくら心を構えたとしても、いざとなれば組み伏せられてしまうことだろう。そうなったら逆らうな。静かに迎え入れて、相手の隙(すき)を窺え。そして、一瞬の間に相手の両目を指で抉(えぐ)り取れ。ほんの少しでも躊躇すれば逃げられる。レイプされた後で殺される可能性があることを忘れてはならない。否、レイプされた時点で自分は殺されたものと思え」――。


 レイプという行為は、種というコミュニティを破壊する可能性がある。とすれば、加害者は殺されてしかるべきだろう。本気でそう思う。


 尚、私は本書を買ってもいないし、読んでもいない。もちろん、読む予定もない。所詮、センセーショナリズムに訴えて注目を浴びようとしている程度の研究に過ぎないと思う。実に唾棄すべき研究だ。


 女性は万一に備えて護身用の催涙スプレーなどを持ち歩くべきだ。


JUTTE
ボディガード


 進化生物学に関しては、以下の書籍が有益である――


・『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源フランス・ドゥ・ヴァール
・『迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのかシャロン・モアレム、ジョナサン・プリンス
進化医学(またはダーウィン医学)というアプローチ/『病気はなぜ、あるのか 進化医学による新しい理解』ランドルフ・M・ネシー&ジョージ・C・ウィリアムズ
・『なぜ美人ばかりが得をするのかナンシー・エトコフ
・『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線池谷裕二