三好春樹のエッセイはハズレがない。介護に興味がなくても十分楽しめる。介護従事者であればユーモラスな文章の合い間から深い見識を汲(く)み取ることができる。
老い先が短くなってくると、外面(そとづら)をよくする必要はなくなる。好かれようが嫌われようが関係ない。恨みを残せば化けて出てやる――とまでは言わないが、極端な頑迷ぶりを発揮する老人は確かに存在する。
人間が丸くなるどころか、人格が完成するどころか、年をとると個性が煮つまるのだ。真面目な人はますます真面目に、頑固はますます頑固に、そしてスケベはますますスケベに。
私は自分の中に抱いていた勝手な老人像を打ち壊されたが、なぜかホッとしていた。人間、最後にこんなに個性的になるのなら、若いうちから個性的に生きていけばいいじゃないか、そう思ったのだ。
【『老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた』三好春樹(法研、1998年、『じいさん・ばあさんの愛しかた “介護の職人”があかす老いを輝かせる生活術』改題/新潮文庫、2007年)】
年寄りの現実に狼狽しながらも、前向きに捉えるところが三好春樹の特長だ。読者も単純に、「そうだよなー、ジタバタしたところでみんな最後は死ぬんだもんなー」と明るく受け止めることができる。
他人と同じように生きたところで何の面白味もない。一生懸命バランスを取りながら平均台の上を歩くよりも、時にしがみついたり、落っこちたりしながら、好きな人生を歩んだ方が楽しいに決まっている。若者であれば、平均台をタテにしたりヨコにしたりするくらいの元気があってしかるべきだ。
私がもし二十歳(はたち)であれば、間違いなく平均台を叩き壊そうとするだろう。