古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

リハビリ〜歩行をイメージする/『脳から見たリハビリ治療 脳卒中の麻痺を治す新しいリハビリの考え方』久保田競、宮井一郎編著

 ・経頭蓋磁気刺激法(TMS)
 ・リハビリ〜歩行をイメージする


 今読んでいる最中の『マインド・ウォーズ 操作される脳』(ジョナサン・D・モレノ著/久保田競監訳、西尾香苗訳、アスキー・メディアワークス、2008年)の表紙見返しに「脳機能の最高権威 久保田競(京都大学名誉教授)監訳」とあった。その関連で本書を取り上げておく。


 前にも書いたが初心者向けの内容である。最新治療法のアウトラインをざっと紹介している。注目に値するのは以下――

 さらに興味深いことに、歩くことを想像すると歩行時の脳活動に近い活動分布を示すことがわかりました。実際の歩行と比べると活動の中心は一次運動野よりも前の補足運動野に見られますが、ここで大切なことは運動の想像をするだけで実際に運動をするときと同じような神経ネットワークが活動するということです。


【『脳から見たリハビリ治療 脳卒中の麻痺を治す新しいリハビリの考え方』久保田競(くぼた・きそう)、宮井一郎編著(講談社ブルーバックス、2005年)以下同】


 イメージ・トレーニングがリハビリにおいても有効であるとの指摘だ。我々は日常において足で歩いていると実感しているが、その指令は脳から出されたものであるがゆえに、実は「脳が歩いている」ともいえる。


 もう少し厳密に書こう。例えばほっぺをつねったとする。すると、ほっぺに痛みを感じる。しかし実際は、脳内の頬に該当する神経が痛みを認識しているのだ。つまり、頭蓋骨を外して脳味噌のその部分を刺激すれば、ほっぺをつねらずしても頬に痛みを感じさせることが可能となる。これを発見したのがワイルダー・ペンフィールドである。ペンフィールド体性感覚ホムンクルスを一度は見たことがあるだろう。


 こうした事実から、人間の行動というものが「初めにイメージありき」であることが理解できる。


 入門書としておとなしく終わればいいものを、久保田は最後に本音を漏らす――

 最後に少し触れておきますが、リハビリテーションでよくなった体験報告の手記が数多く出版されています。これらは医学的な記載が不十分なものが多いので、読んで参考になることは多くありません。


 それは、「お前にとっては」というレベルの話だろう? 「脳機能の最高権威」にあぐらをかいている人物が馬脚を露わした瞬間だ。久保田は科学的事実と経験的事実を混同している。多分、データを重視する考えを示したつもりであろうが、期せずして学者の思い上がりを吐露した格好になっている。


 他人の経験から何を読み取り汲み取るかは、聞き手の側の問題である。久保田は間違いなく患者の話を軽々しく扱うタイプの人物だろう。