古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

太陽系の本当の大きさ/『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン

 ・太陽系の本当の大きさ
 ・相対性理論によれば飛行機に乗ると若返る
 ・枕には4万匹のダニがいる
 ・あなた個人を終点とする長い長い系図
 ・陽子
 ・ビッグバン宇宙論
 ・進化論に驚いたクリスチャン

『人類が生まれるための12の偶然』眞淳平:松井孝典監修
『宇宙は何でできているのか 素粒子物理がうで解く宇宙の謎』村山斉
『黒体と量子猫』ジェニファー・ウーレット
・『重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』大栗博司
『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 フェルミのパラドックス』スティーヴン・ウェッブ
『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド
『サイクリック宇宙論 ビッグバン・モデルを超える究極の理論』ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック
『人類を変えた素晴らしき10の材料 その内なる宇宙を探険する』マーク・ミーオドヴニク

 3150円という値段は安い。639ページもある類い稀なポピュラーサイエンスだ。持ち歩くには不便極まりないので、トイレに置いておくのが正しい。便座の上で科学史を学べば、いっぱしの理系になれるというもの。私なんぞは、その日に読んだ内容を次々と色々な人々にしゃべりまくった。「昔から知ってました」という顔つきで。相手の瞳は敬意で染められ、「小野博士……」と呼びたくなる気持ちを抑えているようでもあった。

 すぐ気づくのは、今までに見た太陽系の地図がどれも恐ろしく縮尺を無視して描かれていることだ。学校にある地図ではおおむね、惑星と惑星が近所付き合いのできそうな間隔で並んでいるように見える――外側にある巨星が互いに影を落とし合っているようなイラスト画を見かけることさえ少なくない――が、これは同一紙面にすべてを収めるためにどうしても必要な、騙し絵なのだ。海王星は実際には木星のちょっと先にあるわけではなく、木星のはるか彼方――地球から木星までの距離の約5倍、木星から離れたところ――にあって、あまりの遠さに、木星が得る太陽光の3パーセント分しか海王星には日が当たらないほどだ。
 こんなに拡散していては、現実問題として太陽系を一定の縮尺率で描くのは無理だ。たとえ教科書の端に幾重にも折りたたんだ紙を貼り付けても、長い長いポスター用紙を使っても、正確な縮尺率とはかけ離れたものにしかならない。地球の直系が豌豆豆(えんどうまめ)くらいになる縮尺で太陽系を作図すると、木星は300メートル先、冥王星は2.4キロ先になる(しかも大きさはバクテリア程度だから、どのみち見ることができない)。同じ縮尺率を用いた場合、太陽系にいちばん近い恒星プロキシマ・ケンタウリに至っては、ほぼ1万6000キロの彼方だ。全体の縮尺率を上げて、木星が文末のピリオド、冥王星がせいぜい分子のサイズになるように縮めたとしても、冥王星はまだ10メートル以上向こうになる。
 というわけで、太陽系はまったくもって、とてつもなく広い。わたしたちが冥王星にたどり着くころには、太陽から遠く離れすぎて、あの暖かで、肌を小麦色に焼き、活気をもたらす麗しいお日様は、ピンの頭ほどのサイズになっている。ちょっと大きめの明るい星といったところだ。


【『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン/楡井浩一訳(NHK出版、2006年)】


 これ凄いよね。ゲゲッ、そんなに大きかったのかよ。じゃあ、宇宙人なんか来られるわけねーだろーよ、ってな具合。地球がえんどう豆ってことは、東京は塵(ちり)程度の大きさで、その中で生きている私に至っては存在しないも同然だよ。宇宙の大きさは、あくせく生きることの馬鹿馬鹿しさを教えてくれる。


 しかしながら実際は、えんどう豆の上で戦争を行い、貧困が拡大され、自然が破壊されている。私が神様だったら、踏み潰しているかも知れない。「そんな小さな世界で争っていてどうするのだ」と。


「我々はえんどう豆の住人に過ぎない」――ウム、素晴らしい思想だ。早速、これを広めることにしよう。私は今日から「えんどう豆教」の教祖だ。来れ、信者よ!