古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

小田嶋隆


 1冊読了。


山手線膝栗毛小田嶋隆/東京山手線の29の駅と町にまつわるエッセイ。開いたと思ったら読み終わっていた。オダジマンは天才だ。いや神かも知れぬ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。また、酔っ払いのようによろめき、愛煙家のように痰を吐き捨てる。そして、塵芥のように空中へ舞い上がり、ミミズのように地中をのた打ち回る。鋭利な刃物と重さ十分の鈍器を武器に、慧眼と下卑た眼(まなこ)を併せ持ち、ロジックとセンチメンタルをさらりと表現してみせる男――それがオダジマンだ。東京にまつわる幻想と欺瞞を打ち破り、自分が生まれ育った東京に回帰しつつ、現在と過去を行き来する“内なる紀行文”として読んだ。傑作。