組織化

 彼はこの集まりは対話が目的で誰でも参加出来ること、自分は権威者でも何でもないことを強調することで話をはじめた。対話が展開していくにつれ、参加者の数は多くなり、元気な意見の交換が続いた。しかし彼は基本的な単純な質問をすることでより深い境地を探り続けた。「宗教とは何なのだろう。探究するというのはどんな意味なのだろう」などと言って質問の原点を探ることに焦点を合わせ、どの参加者もゆっくりと慎重に一緒になって進んでいこうと主張した。突然彼は、論議していることの現実性に直面するように私たちに熱心に訴えた。「どうか聴きなさい。私たちに関心があるのは生のすべてを理解することで、その小さな隅っこではない。自分たちの日常生活の中で、毎日実際に生きていく中で、何が真理なのかを自分たちでみつけなくてはならないのだ」
 私は話の進め方が理論づけたり抽象的な推論などとは程遠い、単純な速効性と実際性に充ちているのに深く打たれた。どんな答えも彼を満足させず、どんな結論も受け入れられなかった。ひとくぎりした処で、歴史を振り返ってみるまでもなく組織化された宗教が人類を分離し、口で言えないほどの混乱と苦悩の原因になった事実に聴き手の注意を向けながら、彼は話すのを途中でやめ、いたずらっぽい微笑みを顔に浮かべた。
「ひとつ冗談を言いましょうか」と彼は口をはさんだ。「この噺は聞いた人もいるかも知れないが、退屈がらないように願います。悪魔と彼の友達が地上を歩いていた。すると前方でひとりの男が屈み込んで何か光るものを地上から拾いあげた。彼は喜色に満ちてそれを眺め、ポケットに納め、意気揚々と歩き去った。友達が尋ねた。『何をあの男は拾ってあんなに様子が変ったんだね?』すると悪魔が答えた。『うん、あの男はな、真理の一片を見つけたのさ』『何だって!』と友達が叫ぶ。『あんたにとっては都合が悪いんではないかね?』『一向に』と悪魔はずるそうに答える。『組織化する手助けをしてやるからさ』」


【『キッチン日記 J.クリシュナムルティとの1001回のランチ』マイケル・クローネン/高橋重敏訳(コスモス・ライブラリー、1999年)】

キッチン日記―J.クリシュナムルティとの1001回のランチ