古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ダウド・ハリ、渡辺哲夫


 1冊挫折、1冊読了。


 挫折47『ダルフールの通訳 ジェノサイドの目撃者』ダウド・ハリ/山内あゆ子訳(ランダムハウス講談社、2008年)/スーダンダルフール紛争を私は知らなかった。アフリカ大陸はヨ欧州列強の植民地化によってズタズタにされてきた歴史があるが、これはアラブ系によるアフリカ人虐殺だ。イスラエルの非道ぶりを知ると、私は弱者としてのアラブ側(=パレスチナ)に同情、共感せざるを得ないが、所が変わると我が憎悪はアラブ人に対して向けられることになりそうだ。期待していたのだが50ページで挫ける。文化の違いかもしれないが、ラクダが砂漠を歩き回るように脈絡もなく内容が飛ぶ。この飛躍についてゆけなかった。少年時代の記述も余計である。ソフトカバーで1800円は高すぎる。


 97冊目『死と狂気 死者の発見』渡辺哲夫(筑摩書房、1991年/ちくま学芸文庫、2002年)/これは面白かった。読むにはそこそこの覚悟が必要だ。現実が半音ズレるような感覚に捉われる。著者は真面目で気が弱いタイプと見受けた。6人の重篤精神分裂病患者が発する言葉を、論理ではなくして情緒で読み解く作業が行われている。渡辺哲夫は最終的に「土着的な言霊信仰」に結びつけているが、宗教的、あるいは哲学的アプローチというよりは、文学的であり歴史的である。社会が拒絶し、隔離された患者を人間的に受け容れようと格闘している。受容という地平の向こう側に、患者達の新しい表情が浮かんでくる。読んでいくうちに、彼等の思考が何となく「失敗した悟り」「神の早過ぎた登場」と思えてくるから不思議だ。しかし渡辺がどんなに頑張ってみせたところで、彼等の世界観が共感を得られることはないだろう。患者等のネオ=ロゴスは下手な実験小説よりもはるかに強烈だ。