ロスチャイルド家がユダヤ人をパレスチナへ送り込んだ/『パレスチナ 新版』広河隆一

 一般的には「パレスチナ問題」と表現されているが、その実態は「イスラエル問題」であり、ユダヤ人の側に罪があるものと私は考えている。パレスチナからすれば、「軒を貸して母屋を取られる」ありさまだ。

 イスラエルは中東の中央に位置する。今まで知らなかったのだが、中東にはアフリカ大陸の北東部も含まれ(Wikipedia)、北アフリカ諸国の公用語はいずれもアラビア語となっている。


 イスラエルを取り巻く問題には、宗教と民族に端を発したもので、ユダヤ教から派生したキリスト教イスラム教の兄弟同士が血で血を洗う凄絶な歴史が結晶している。現代の先進国における諸制度は、大半がヨーロッパで誕生したものである。資本主義、議会制民主主義、選挙、憲法、組合、三権分立、人権など、数え上げたらきりがない。ここには正義という概念も含まれる。日本人が何となくこれらのものに、しっくりこない感情を抱くのは、いずれも翻訳語のためと思われる(柳父章著『翻訳語成立事情岩波新書、1982年)。その一方でヨーロッパはキリスト教思想を背景とした帝国主義に走り、アフリカ・アジア諸国を蹂躙(じゅうりん)してきた。世界を知るには、ヨーロッパの歴史を学ぶ必要がある。そして、その“負の面”がイスラエルという国家で噴火しているのだ。


 では、いかなる経緯でユダヤ人はパレスチナへ移り住んだのか――

 1880年代初めから、ロシアではユダヤ人大虐殺(ポグロム)の嵐が吹き荒れていた。このあと起こったユダヤ人の青年運動家たちは、ロスチャイルドの手でパレスチナに送りこまれ、この人々は約20の入植地をつくった。
 ロスチャイルド家は西欧に経済的・政治的影響力をもつユダヤ系大資本家である。彼らにとってユダヤ人の救出と、植民地主義的野心の双方が満たされるこの方法は、願ったりかなったりだった。送りこまれたユダヤ人たちは、現地でパレスチナ人を雇って農園を広げていった。ユダヤ人移民は植民地主義諸国の利益にかなうように働き、現地住民を低賃金で働かせ、搾取していったのである。
 ここで、覚えておかねばならないのは、パレスチナに送りこまれたのがいつも東欧のユダヤ人で、送りこんだのが西欧諸国だったということである。


【『パレスチナ 新版』広河隆一〈ひろかわ・りゅういち〉(岩波新書、2002年)】


 ロスチャイルド家といえば、いつだって陰謀説の主人公だ。世界の金融界を牛耳り、多国籍企業すら膝下に治めている。中丸美繪著『嬉遊曲、鳴りやまず 斎藤秀雄の生涯』(新潮社、1996年)には、こんなエピソードも紹介されていた――

 しかし、ドイツほど、ユダヤ人の経済力に依存した国もなかった。戦費、国家財政、貨幣の鋳造などを押さえ、三十年戦争からナポレオン支配を経て解放戦争にいたるまで、ユダヤ人の資金提供のない戦争はほとんどなかった。ヨーロッパに銀行大帝国を築いたロスチャイルド家の兄弟の母は、戦争の勃発を恐れた知り合いの夫人に対して「心配にはおよびませんよ。息子たちがお金を出さないかぎり戦争は起こりませんからね」と答えたという。


 ということは、数々の戦争すらコントロールしていたことになる。少し前に「信用創造のカラクリ」という一文を書いたが、ここで紹介した動画の冒頭にロスチャイルドの言葉が登場する――「通貨の発行と管理を私に任せてくれ。そうすれば誰が法律をつくろうとも私の知った事ではない」(マイアー・アムシェル・ロスチャイルド)。


 第二次世界大戦以降の戦争は、そのいずれもが経済政策として行われているという指摘がある。そして日本は、アメリカが戦争をするたびに経済的発展を遂げてきた。

 すると、いまだにロスチャイルド家が戦争をコントロールしている可能性がある。そして今、資本という力学が腐食し始めた。マネーの暴走をロスチャイルド家ですら止められなかったのか、それともこの事態までコントロールされたものなのかはわからない。


 パレスチナチベットの現状が示しているのは、軍事力を持たない国は大国から踏みつけられるという事実である。力弱き者が立ち上がるには、暴力による道しか残されていなかった。その「悲しき暴力」を私は否定しない。


パレスチナ新版 (岩波新書)