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資本主義経済の最初の担い手は投機家だった/『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦

「機を見るに敏」――そんな人々の思惑から資本主義経済は誕生した。著者は投機を、「機に投ずる」という禅語本来の意味で使用している。

 資本主義経済の最初の担い手は投機家だった。資本主義制度における最初にして最大の投機対象は株式会社そのものである。信仰の自由を求めて新大陸アメリカに渡ろうとする人々にインディアン交易の利益の可能性を視野に入れて、彼らに資金提供してメイフラワー号を建造したベンチャー・キャピタリストのルーツたち。また、オランダ東インド会社に始まって、18世紀初頭イギリスの南海泡沫会社やフランスの「神業(かみわざ)師ジョン・ローのシステム」など、幾多の激震を繰り返したバブルの人類史は、19世紀後半にイギリスの株式会社制度に結実した。この間のリスクとの戦いは一方で数学(統計力学)を発展させ、一方で株式会社の有限責任制度を生み出した。ここには常に、リスクとの知的な戦いがあった。


【『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦(ダイヤモンド社、2000年/『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』講談社+α文庫、2007年)】


 投機は「未来に対する賭け」であった。まだ世界が未開拓であった頃は、新天地で何が出てくるか予想もつかなかった。現代においては技術や情報などが対象となっているが、本質は何も変わっていない。


 政治の主要な仕事が「所得の再分配」であるにもかかわらず、多くの場合、分配の栄誉に預かっているのは一部の大企業となっている。富は金持ちの間で再分配されているのが実態だ。ラビ・バトラは「極端な集中が国家を崩壊する」と指摘している。とすれば、経済を活性化させること以外に、格差を是正する方途はない。そのためには、一人ひとりが消費のあり方を見直す必要もあるだろう。お金の動きを意識しながら、スポンサーシップという自覚を持たねばならない。「競争」を至高の価値としているのは、結局のところ消費者の側なのだ。


 先進国は明らかに供給過剰となっている。昨年から始まった金融マーケットの崩壊もそれを示している。共存や共栄、あるいは共生といった価値観を欠いて、経済の建て直しは難しいと思われる。


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