古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

アメリカ経済界はファシズムを支持した/『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出

 ・アメリカ経済界はファシズムを支持した
 ・第二次世界大戦の命運を分けた人脈−チャーチル、イントレピッド、ルーズベルト
 ・CIA以前

『ヒトラーの経済政策 世界恐慌からの奇跡的な復興』武田知弘

必読書 その二


 ナチス・ドイツというファシズム国家を誕生せしめたのはアメリカだった、という衝撃的な内容。一読して、日本人の発想では欧米に太刀打ちできないことを痛感させられる。奴等は清濁併せ呑むレベルを軽々と凌駕している。政界と経済界との利益が一致しない時、表の歴史は政治で動く。だが、裏の歴史を牽引しているのは経済界だ。国益とは経済の異名である。国益という大義名分のもとで、政治は経済に膝を屈する。歴史を経済で読み解けばこれほどすっきりするというお手本のような一冊。


 第一次世界大戦が起こったのが1914〜1918年。そして1922年12月30日にソビエト連邦(-1991年)が産声を上げた。当時と現在のヨーロッパを比較してみよう――


1914年のヨーロッパ地図
現在のヨーロッパ地図


 ソ連は近隣諸国に“革命”を輸出した。各国の共産党に指示を下し、武器を与えた。東欧は赤く染められた。アジアでは中国、ベトナム社会主義国となった。だがこれは、第二次世界大戦後(1939-1945年)のことである。


 ソ連が成立した1922年には、イタリアのファシスト党党首ムッソリーニが権力を奪取した。これに影響を受けたドイツのヒトラーは、クーデターを起こすも未遂に終わる(ミュンヘン一揆)。ヒトラーが首相となるには10年という時間を要した(1933年1月30日/1934年8月19日に国家元首となる)。


 簡単に歴史のおさらいをしておくとこうなる――


・1914-1918年 第一次世界大戦
アメリカ経済が空前の大発展を遂げ、世界経済の中心はロンドンからニューヨークのウォール街に移る。
・1922年 イタリアでファシズムの台頭/ソ連成立
・1929年 世界大恐慌
・1933年 ヒトラー内閣が発足
・1939-1945年 第二次世界大戦


 ソ連は生まれながらにして“資本主義経済の脅威”だった。特に我が世の春を謳歌していたアメリカのエスタブリッシュメントにとっては――

 アメリカには、共産主義の台頭に尋常ならざる危機感を抱き、この「赤」の脅威に対抗するために、ヨーロッパ大陸で生まれつつあったファシズムに共鳴する一群のエリートが存在した。このエリート集団の存在は、アメリカ合衆国の対欧州政策に大きな影響を与え、ナチス・ドイツという強力なファシズム国家の誕生を可能にした。


【『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出〈すがわら・いずる〉(草思社、2002年)以下同】


 第一次世界大戦の特需で沸いたアメリカは、1920年代に対独投資がブームとなった――

 この20年代の対独投資ブームでは、ごくごく少数のウォール街投資銀行や法律事務所のエリートたちが、米独間の多岐にわたるビジネス関係をとりまとめ、莫大な利益をものにした。こうしたいわばウォール街の「仕掛人」たちが、ドイツ経済の復興を助け、ドイツ産業界を甦らせ、そしてヒトラー再軍備に間接的に協力していったのである。
 戦争の「種」をまいたともいえるこうしたウォール街の「仕掛人」の一人が、ジョン・フォスター・ダレスである。

ジョン・フォスター・ダレス

 1920年代の対独投資ブームは、アメリカの銀行に莫大な富をもたらし、ドイツはカナダを除けばアメリカン・マネーの最大の受け入れ国になった。1925年から1930年の間に、アメリカの民間銀行はドイツに対し30億ドル近い資金を貸し付けたが、この金額は、第二次世界大戦後のマーシャル・プランでドイツが受けとった額13億ドルの、実に2倍を超える莫大な金額であった。こうしてアメリカから資金を得たドイツの産業界は、前例のないほど強力な企業連合を生み出し、そしてそれが後にヒトラーの重要な財産となっていくのである。


 ジョン・フォスター・ダレスは後にアメリ国務長官(1953年1月)となった人物である。

 20年代の対独投資ブームで活躍したウォール街の「仕掛人」ジョン・フォスター・ダレスは、30年代に入ると欧米の大企業間の破滅的な競争を廃し、マーケットを分割する国際カルテルのとりまとめに邁進し、ドイツの大企業をこうしたカルテルに組み入れることに力を注いでいく。カルテル協定を結ぶことにより、アメリカの大企業がドイツ企業の進んだ科学技術を入手することができたという利点もあったが、特筆すべきは、こうしたカルテル協定により、ドイツ企業が軍事関連技術や戦略物資を入手することが可能になり、結果としてヒトラーの戦争準備に大いに貢献したという点である。
 ダレスが最初にとりまとめたカルテルは、ニッケルに関する協定であった。


 反共を理由にして、アメリカのエスタブリッシュメントはドイツのファシズムにテコ入れした。ところが、凶暴な猫だと思われていたドイツがいつの間にか虎に成長していたのである。


 ネットで調べた情報を先に記しておいたが、アメリカ経済界が最初から意図的にヒトラーを支持していたわけではない。経済力をつけたドイツが、ヒトラーを選んだことになる。だが後にヒトラーを支持した人々が確実に存在した。ジョン・F・ケネディの父親ジョセフ・P・ケネディや、ジョージ・W・ブッシュ大統領の曽祖父にあたるジョージ・ウォーカーがそうだった。


 資本主義経済においては、儲かれば誰とでも組むのが鉄則だ。なぜなら、資本主義は利益を出すことが目的であるからだ。だから、金儲けが正義となる。


 その後アメリカは、チャーチルが送り込んだイントレピッドというスパイの工作によって、連合国側に引きずり込まれる。アメリカ経済界がこれに抵抗するも、フランクリン・ルーズベルト大統領に押し切られてしまう。そして、第二次世界大戦に突入した。


 歴史のいたずらがアメリカ・エスタブリッシュメントに味方する。終戦直前にルーズベルトが死去したのだ。彼等は息を吹き返した。ドイツの戦後処理は経済的見返りが優先された。戦争犯罪は不問に付して、ドイツの技術者をアメリカに連れて帰った。西側連合国がドイツから搾取した資産は100億ドルに上ると算定されている。


 まったくもって恐るべき歴史だ。国益とは、ウンコ(共産主義)よりもゲロ(ファシズム)を選択する営みなのだ。そして資本主義は、戦争をも経済活動として捉える。スクラップ・アンド・ビルド、結んで開いて手を打って、と。


 関岡正弘は「大恐慌が第二次世界大戦を惹き起こした」と指摘している。で、大恐慌の直接的な原因は、第一次世界大戦が生んだ富である。つまり第一次世界大戦以降、人類は富(あるいはマネー)に翻弄されていると考えられる。20世紀は、マネーが人間をコントロールする時代の幕明けとなったのだ。


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